約 1,746,360 件
https://w.atwiki.jp/ruugle_sennsei/pages/176.html
ジャイロ 遊具 商品名 X-JYLO 商品説明 エックスジャイロはハイテク感覚の飛行遊具。 手首のスナップを利かせ回転力をつけて飛ばせば180m以上も彼方へフライング。 遠くに投げるそう快感を味わってみるのもとても楽しいです。 2010年夏合宿の観光地(公園)で遊ぶためにボールなどの遊具が欲しいということでゲオルグが持ち込んだ。 商品説明に書いてあるように180m以上飛ばすにはかなりの力量と技術が必要で、最初のころは10~20m飛ばすのがやっとである。 持ち込まれた当日にT講前で遊び、その面白さに一部の愚者が虜になった。 ゲオルグは持ち主というだけあってT講前の芝生から車道にまで飛ばすという大遠投を見せつけた。 その後も何回かT講前の芝生で遊ばれて、他の愚者たちも遠くに飛ばすことが可能となり 「T講前は俺たちには狭すぎる 」 という名言が生まれた。 ※実はT講前はキャッチボール等が禁止のようで、通算で2回注意を受けている。 ジャイロの先端部は金属のリングのようなものが付いていて、正面から受け止めようとするとかなり痛い。 関連項目 ジャイロ流失・流血事件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9307.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十二話「吸血ボール学園襲来!!」 コブ怪獣オコリンボール 登場 「ふぁぁぁぁ~……」 ……早朝の教室で大きなあくびをする俺。それをルイズが咎めてきた。 「はしたないわね! あくびなんて」 それに俺はこう言い返した。 「しょうがないだろ? いつもならシエスタとかリシュが優しく起こしてくれるのに、今日はお前らに 乱暴に起こされてさぁ。パジャマのまま連行されたんだぞ?」 昨日はルイズとキュルケの推薦者役を押しつけられた訳だが、この二人は何と今朝俺の家に 押しかけてきて、今日からもうミスコンの準備をするからと、朝早くから俺を学校まで引きずった のであった。着替える時間もくれずに……。制服は慌てて追いかけてきたシエスタが持ってきて くれて、どうにか学校で着替えられた。シエスタはもう一度俺の家に戻って、今度は鞄と弁当を 持ってきてくれるという。お前にまで迷惑かけてすまん、シエスタ。 「ごめんなさい、ダーリン。ちょっと焦っちゃった」 謝るキュルケ。正直、ちょっとどころじゃないだろ。 「んで、何なんだよ。準備って」 うだうだ言っていても仕方ないので、気を取り直して尋ねかけると、ルイズとキュルケが 二人掛かりで答える。 「ミスコンについて詳しい説明をするわ。よーく聞いてなさいよ」 「へーい」 「このミスコンは、ただの人気投票じゃないわ。この学園を代表するにふさわしい人を選ぶ、 重要なイベントなんですって」 それに出るのがこの二人かぁ。いいのかな? 「審査の種目には三つ。運動対決、学力対決、最後にアピール対決。アピールにはダーリンも お待ちかねの水着審査も入ってるわよ?」 「おおー! やっぱしそれは外せないな」 「なーにーを、喜んでるのかしら? サイト?」 「い、いや何でもッ! あはははは!」 い、いかん。ルイズのコンプレックスを刺激してしまったみたいだ。咄嗟に笑ってごまかした。 しかし……今更だけど、学園伝統ってことは去年もやったんだよな? でも水着審査が あるようなイベントが開催されたなんてこと、全然記憶にないんだが……。何かおかしくないか? 俺の疑問をよそに、キュルケが口を尖らせた。 「ミスコンなんだし、美貌の勝負でいいのにね。学力対決なんて面倒だわ」 「外見だけが、美しさの全てじゃないぞ」 突然、第三者の声が話に混じった。振り返ると、教室の入り口に矢的先生がいる。 「あッ、先生。おはようございます」 「おはよう。平賀、今日は随分と早いな」 「この二人に引っ張られまして……。それより、今の話は?」 尋ね返すと、先生は次のように語る。 「この学園のミスコンで問われる美しさは、表面上だけのものじゃない、学園の代表として どこに出しても恥ずかしくないような、内面からもにじみ出る真の美しさだ。それはつまり、 心身ともに健康で、かつ聡明であること。内面の伴わない美しさは結局良いものとはいえない。 むしろ真逆の場合もある。実は悪魔のような宇宙怪獣を閉じ込めるための檻だったスノーアート みたいな」 スノーアート? たとえがよく分からないけれど……先生の口調には妙な説得力があった。 まるで実際の経験談みたいな感じだ。 「まぁ何はともあれ、この学園のミスコンは一筋縄ではいかないものだから、ルイズもキュルケも 頑張って優勝を目指してくれ。それじゃ、またホームルームでな」 応援の言葉を残して、先生は教室から離れていった。それからルイズとキュルケが俺に向き直る。 「そういうことだから、才人にも手伝ってもらうわ」 「手伝うって? 勉強も?」 「ええ。よろしくお願いね、ダーリン!」 「ええええ……」 マジかよ……。勉強なら、俺の方が手伝ってほしいくらいなのに。というか、二人分の 応援となると、単純に考えて労力が普通の倍ってことになるよな。一人の推薦者だけでも 苦労しそうなのに……。 ああ……今更ながら、今日からミスコン本番まで、俺はどうなってしまうのだろうか……。 実際、今日一日学校にいる間、本当に大変だった。朝早くから叩き起こされたから、睡眠不足で 授業中は延々眠い。そして昼休みはルイズとキュルケのミスコンへの特訓につき合わされるので、 ろくに休んでいる時間もない。しかも二人が仲良く一緒に特訓するはずがないので、俺の取り合いに なるのを止めなければいけないというおまけつきだ。とりあえず、昼休みと放課後で交代でつき合う という形でその場を収めた。 これからミスコン当日まで、こんな休む間もないスケジュールが毎日続くのかよ……。 俺の身体、持つのだろうか……。 「うぁ~……つ、疲れたぁ……」 放課後の、下校時間ギリギリ。俺は校舎の廊下でかすれた声を絞り出していた。こんな時間まで 学校に残っていたのは初めてだ……。今日一日、朝からずっとルイズたちに振り回されて疲労困憊気味だぜ……。 「もう、だらしがないわね。男子でしょう? もっとシャキッとしなさいな」 ルイズが俺をとがめるようにそう言うと、キュルケがからかうように口を挟んだ。 「誰かさんがダーリンをこき使うからじゃないかしら? 全く人遣いの荒い女って嫌ねぇ。 労わるということを知らないのかしら?」 するとルイズはむっとキュルケをにらみ返す。 「何を言ってるのかしら~……? サイトをこき使ったのはあんたの方なんじゃないの!? 今朝だって、朝早くから押しかけて無理矢理起こして学園に引っ張ったりしてたじゃない! 迷惑よね!」 「それやったの、あなたもでしょう!?」 ルイズとキュルケは喧嘩腰になって視線で火花をバチバチ散らす。ああもう、こいつらは ホント飽きないな……。 「おいおい、もう下校しなくちゃいけないんだからやめてくれよ……」 これ以上校舎には居残れないので、俺が辟易しながら仲裁しようとした、その時に視界の 片隅に変なものを捉えた。 「ん……?」 何だ、あれ? ソフトボールくらいの大きさの球が、宙に浮いている……? 「サイト、どうしたの?」 「あら、ボールが浮いてる……?」 ルイズとキュルケもその球に気づいた。宙に浮く球は、よく見たら表面の一部分から根っこの ような突起が生えている。 俺たちが訝しんでいると、浮遊していた球は急に素早く動き、こっちに向かって迫ってきた! 『才人、よけろッ!』 突然ゼロが警告した! 俺は咄嗟にそれに従い回避行動を取る! 「危ない二人ともッ!」 「きゃッ!」 ルイズとキュルケを押しのけながら俺も身体をそらした。ギリギリのところで空飛ぶボールは 空振りして通り過ぎていく。 と思われたが、Uターンしてまた飛びかかってきた! 「くッ!」 今度もよけようとしたところ、俺たちの元に矢的先生が飛び込んできた。 「伏せるんだ、みんなッ!」 先生は箒の柄でボールを叩き落とした。上から殴りつけられたボールは廊下の床にぶつかると、 ベチャッ! と潰れてペシャンコになった。 潰れたボールの跡からは赤い血が飛び散り、グチャグチャの肉塊に変わり果てた。 「きゃああああああッ!?」 あまりにもグロテスクな光景に、ルイズとキュルケが悲鳴を上げた。こ、こいつ、生物なのか……! 「危ないところだったな……。三人とも、まだ学園に残ってたのか」 「先生、助けてくれてありがとうございます。でも、このボールみたいなのは……」 潰れたボールに目を落としている俺たちに、先生はその正体を告げた。 「こいつは宇宙生物の一種で、人間の血を吸って殺してしまう危険な吸血ボールなんだ。 食らいつかれたら最期、触手が心臓と脳に食い込んで、外科手術でも除去するのは不可能に なってしまう」 本当だ、端末のデータにそう書いてある。 「お前たちが無事でよかった……と言いたいところだが、このボールはたくさんいるんだ。 ここにいるということは、近くにまだ大量に潜んでるはず。すぐに避難した方がいい!」 その情報もある! 無数のボールが大多数の被害者を出したって……。何てこった、一大事じゃないか! 「……でも先生、何でこのボールのことについて、そんなに詳しいんですか?」 ふと尋ねかけると、先生は首をひねった。 「……何でだろうな?」 自分でも分からないんですか……? しかしそんなことをしていられる暇はなかった。外から、大勢の人たちの悲鳴が聞こえてくる。 「まずい! 本格的に行動を開始したみたいだ! 危険だ、さぁ早く避難を! 先生が先導する!」 「待って下さい!」 俺は近くの教室から先生のように箒を持ってきて、宣言した。 「俺はボールをやっつけに行きます! あいつらを倒さない限りは、どこに逃げたって同じだ!」 「サイト!? 無茶だわ!」 「こればかりはルイズの言う通りよ、ダーリン! 危険すぎる!」 ルイズとキュルケは俺を止めるが……俺は視線に力を込めて先生の目を覗き込んだ。 「……」 すると、俺の想いを感じ取ってくれたのか、先生はうなずいた。 「……平賀、危ないと感じたら、すぐに逃げるんだぞ。お前の命も、僕らにとってすごく大事なんだ」 「ありがとうございますッ!」 「サイト!」「ダーリン!」 俺は礼を言い、ルイズたちを振り切って校舎の外へと抜け出していく。そこで箒から ウルトラゼロアイに持ち替える。 外は大変な惨事になっていた。無数のボールが街の中を飛び交い、人々に無差別に襲いかかっている! くそッ、シエスタやリシュたちは無事なのか? 早くどうにかしないと! 焦る俺にゼロが助言した。 『才人、まずはこいつらの核となるリーダーを引きずり出すのが先決だ!』 「核?」 『ボールは分裂を繰り返してるから、一個一個潰しててもきりがねぇ。だが核をやっつければ、 他のボールも連鎖的に全滅できるはずだ』 そうみたいだ。ボール一個一個は肉体の一部分のようなもので、単体で生存できるだけの 器官を備えていない。心臓部となる親玉を仕留めれば、他のボールも息絶える! 「でも、その核ってのはどう捜すんだ?」 『生物の本能として、本体に近いところほど子分ボールが密集してるはずだ。その場所を 見つけ出すんだ! 心配はいらねぇ、俺がナビゲートするぜ!』 よし、進むべき方向は分かった。後は行動あるのみだ! 片手にはゼロアイ・ガンモードを、もう片手は背中に伸ばし……空を切った。 「あれ?」 『おい、何やってるんだ才人。お前の背中には何もないぞ!』 ゼロに突っ込まれてしまった。おかしい、身体が無意識に動いた……こういう時、大体いつも こうしているような気がしたんだ。背負っているものを手に取って、戦いに挑んでいたような……。 いや、こんなボケている場合じゃないぜ! 一刻も早く吸血ボールを倒さなきゃ! 俺はゼロアイの光線を撃って人々を襲うボールを撃ち落としていきながら、ゼロの導く方向へと 歩を進めていく。確かに、進むにつれて空中のボールの密度が増えていっているように思える。 『才人、後ろだ!』 ゼロからの警告。振り返った俺は、背後から飛びかかってきたボールを撃ち落とした。 『十分気をつけろよ。お前がやられちまったら、こいつらをやっつけれる奴はいなくなっちまうんだからな』 「ああ!」 ゼロの助けもあり、俺は単騎でも無数のボール相手に無双する。 ……不思議だ。ウルトラマンゼロとして怪獣と戦ったことはもう何度もあるけれど、こうして 平賀才人として戦った経験はないはず。それなのに、人の血を吸い尽くす恐ろしい殺人ボール軍団 相手に立ち向かえている。これはゼロがついてくれているからだけじゃない。俺自身が、こういう 戦いに慣れているからだ。経験はないはずなのに、どうして……。 いや……ここじゃないどこかで、いくつもの試練を乗り越えてきたような気がする。苦戦を重ねて、 挫折を味わって、思い悩んで、ふさぎ込んで、誰かに鍛えてもらって……それで今の俺がある。 記憶にはないけれど、そのことを身体の奥底で憶えている……。 『いい調子だ、才人! こうやってボールを倒し続けていけば、異常を感じ取った核自身が 姿を現すはずだぜ』 ゼロの言葉通りのことが、そう時間が掛からない内に起こった。街の陰から、他のボールよりも 二回りほども大きいグロテスクなボールが飛び上がったのだ。 あいつが核に違いない! ここからが正念場だ! しかしさすがに吸血ボール軍団のボスは簡単にはいかないようだ。親玉はこっちが攻撃するよりも早く、 街中のボールを全て己の周りに集めて合体していく! そうやって完成したのが、ボールで形成された巨大な人型だ! 「グオオオォォォ……!」 これが吸血ボール、オコリンボールの戦闘形態か! 『才人、ここからは俺の出番だ!』 「よし! 頼んだぜ、ゼロ!」 大怪獣へと変貌したオコリンボールを前にして、俺はゼロアイを開いて顔面に装着! 「デュワッ!」 たちまちウルトラマンゼロへと変身して、オコリンボールと同等のサイズに巨大化。ここから ゼロと恐怖の怪獣オコリンボールの決戦が始まる! 『へッ、立て続けに群体型の怪獣が相手とはな。奇妙なもんだぜ』 ゼロが戦闘開始前にそんなことをつぶやいた。……ん? 『ゼロ、前の相手はガビシェールだっただろ?』 突っ込む俺。ガビシェールはどう見ても群体型じゃないだろう。 『え? ああ、そうだったよな……。いや、その間に別の何かがいたような感じがするんだが……』 どうしちゃったんだ、ゼロ? 俺も最近変にボケることが多いけれど、お前まで変なこと 言い出さないでくれよ……。 「グオオオォォォ……!」 とかやっていたら、オコリンボールの方から攻撃してきた! 頭の部分を司っている核から 赤い光線を撃ってきた! 『おっと!』 しかしさすがはゼロ。それを難なくかわし、飛び蹴りで反撃する。 『うらぁッ!』 「グオオオォォォ……!」 だが向こうも身体を反り、飛び蹴りを回避した。ボコボコした見た目にそぐわず素早い奴だ……! 着地したゼロにオコリンボールは体表からいくつか吸血ボールを切り離して飛ばしてきた。 あれに食いつかれたらまずい! 『その手は食らうか!』 ゼロはボールもかわすと、ゼロスラッガーを飛ばしてボールを全て切り落とした。これで流れ弾に なったボールが街に被害を出すことはない。 「セェアッ!」 ボールを始末したゼロはオコリンボールの正面に拳を入れる! ……が、パンチは相手の ボディに弾き返されてしまった。 『くそッ、だったら!』 打撃が効かないので、ゼロは相手の首を捕らえて投げ技を仕掛けようとした。だがツルッと 手が滑ってオコリンボールを掴むことが出来ない! 相手はツルツルの球状だから、引っ掛かりがないんだ! 『くっそー! やりづらい相手だぜ!』 投げも通用しないので、ゼロは強烈なキックの一撃を入れるも、オコリンボールは倒れたと 同時にバウンドして起き上がる。元々重力を無視して浮遊する宇宙生物だから、重力は関係ないのか! 『こいつでどうだッ!』 肉弾戦で駄目ならと、ワイドゼロショットを撃ち込んだ! しかしオコリンボールは全身が 一瞬バラバラになったかと思うと、すぐに合体し直して元通りになる。 直撃と同時に分散することで、ダメージを軽減しやがったな! こいつは想像をずっと越えた難敵だ! 「グオオオォォォ……!」 ゼロのひと通りの攻撃を弾き返したオコリンボールは、赤い光線を乱射してきた。回避行動を 取るゼロだが、攻撃の勢いはすさまじく、一発もらってしまった。 『ぐぅッ!』 「グオオオォォォ……!」 ひるんだところにオコリンボールが詰め寄ってきて、連続パンチを繰り出してくる。ボクサーさながらの 猛ラッシュに追い詰められるゼロ! 頑張ってくれ! 負けるな! 『言われなくてもッ!』 奮起したゼロが掌底でオコリンボールを大きく突き飛ばす。だがやはり倒れた瞬間に何事も なかったように起き上がる。くそ、こいつに有効な攻撃ってあるのか!? 『闇雲に攻撃してても無駄だ。核を狙いすまして、撃ち抜く!』 言うが早いや、ゼロはエメリウムスラッシュを発射! 緑色のレーザーは、オコリンボールの 頭部の核の中心に綺麗に命中した。 「グオオオォォォ……!」 するとオコリンボールの核からブシューッ、と白いガスが噴き出し始め、全身のボールが ボロボロと転落していった。そうか、核の中心を正確に撃ち抜けば、ダメージを分散することは 出来ないのか。それを難なくやってのけるとは、さすがゼロだ! 最後に残った核は、最早これまでと見たか空高く舞い上がり、宇宙へと逃走を始める。 けど、街に甚大な被害を出しておいて、ぬけぬけと逃げ帰ろうなんて都合のいい話があるかよ! 『待ちやがれぇッ!』 ゼロは地を蹴って飛び上がり、逃げるオコリンボールを追跡していく。そして宇宙空間で、 もう一発エメリウムスラッシュを撃ち込んでやった! オコリンボールは一瞬光ったかと思うと、そのまま消滅して宇宙の塵となった。 やった、これで地球は救われたんだな! 『ああ。俺たちの勝利だぜ!』 オコリンボールの消滅を確認したゼロは反転して、地球へと引き返していったのだった。 その日の夜、俺は自室のベッドに横たわって長く息を吐いた。 「ふぅぅ……。今日は一日中、忙しすぎてクタクタだ……」 朝から放課後まではずっとルイズたちにつき合わされ、その後はオコリンボール相手に 大立ち回り。こんなに大変なこと続きの一日も、そうはないだろう。 しかし、オコリンボールの被害をどうにか最小限に食い止められたのはよかった。あれは下手を したら、世界規模の大被害をもたらす類の怪獣だったからな。シエスタ、リシュも無事だったし…… 何より、俺とゼロ、お互いが力を合わせての勝利だったというのも、気持ちがいいところだ。 ……でも、言うことなしのはずなのに、どうしてだか物足りないような気分が拭い切れないんだよな。 ここには何か……いや、誰かが足りていないような、そんな感じが残り続けている。 それとルイズ……どうしてここでルイズの名前が出てくるんだ? あいつはゼロのことには 何も関係していはいはずじゃないか。それなのに……戦闘になると、何故かルイズのことを よく思い出すのだ。これはどういうことなんだろうか……? まぁ、いいや。今日は本気で疲れた……。とりあえず、もう休むことにしよう……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9086.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十四話「ラグドリアン湖のひみつ(後編)」 水棲怪人テペト星人 カッパ怪獣テペト カプセル怪獣ミクラス 大蛙怪獣トンダイル 登場 「か、怪獣よ! やっぱり出してきた!」 「ひぃッ! こっちに来るぅ!?」 テペト星人と戦いながら、怪獣テペトに目を向けたキュルケが叫び、ギーシュとモンモランシーは 半狂乱になった。テペトはラグドリアン湖の中央から、ザブザブ水を掻いて才人たちのいる岸辺へと 向かってくる。あれに上陸されたら、才人たちの勝ち目は一気になくなってしまう。 『才人! 俺たちの出番だぜ!』 「ああ!」 ゼロの呼びかけで、才人が懐のウルトラゼロアイに手を伸ばして触れた。だがその時、 「サイトぉ! わたし、怖いッ!」 「おわッ!?」 ルイズが後ろから才人に抱きつき、こっそり場を離れてゼロに変身しようとした彼を引き止めた。 「ル、ルイズ! 離すんだ! 今こんなことしてる場合じゃないだろ!」 このままでは変身できない。慌てて剥がそうとする才人だが、ルイズは余計に強く抱きつく。 「嫌ッ! サイト、どこにも行かないでぇ!」 「ああもうッ! こんな時までぇーッ!」 才人がてこずっている間にも、テペトは少しずつ迫り来ている。 『しょうがねぇ! 才人、こんな時にはアレだ!』 「ああ! 行け、ミクラス!」 仕方なく才人は青いカプセルを、周りに見られないようにこっそり投げ飛ばし、変身できない時の味方、 カプセル怪獣をテペトの前に出した。 「グアアアアアアアア!」 カプセルから出てきたミクラスがラグドリアン湖の水面に足を突っ込み、早速テペトへと 掴み掛かっていく。 「キャ――――――――!」 「グアアアアアアアア!」 テペトと両腕を捕らえたミクラスとの押し合いになるが、ミクラスの力の方が勝り、テペトを 突き飛ばして岸から引き離した。そして口から熱線を吐き、テペトの頭頂部の皿を撃つ。 「キャ――――――――!」 皿を焼かれたテペトは慌てて腰を折り、頭を湖面に突っ込んだ。水で皿を冷やすと頭を上げ、 改めてミクラスと向かい合う。 「グアアアアアアアア!」 ミクラスは水の抵抗を物ともせずにテペトに肉薄し、殴り合いで圧倒する。ミクラスの怪力に テペトは敵わず、一方的に押される。 「今の内に逃げられそうね……。ギーシュ、早く包囲を破ってよ!」 ミクラスが食い止めている中、生き残りのテペト星人にまだ囲まれている一行の内のモンモランシーが ギーシュに頼んだ。と、その時、彼女の頬を赤い舌がペロッと舐めた。 「あら? もう、ロビン。こんな時に甘えてこないでよ」 モンモランシーはそれをロビンと思い、たしなめたが、舌はペロペロ頬を舐め続けた。 「やめてったら! 聞き分けのない子ね」 と言っていたら、ギーシュが何やら顔を真っ青にしてこちらに視線をやっていることに気づいた。 「ギーシュ? 何ぼんやりしてるのよ」 尋ねると、ギーシュは震える手で自分を指差した。いや、よく見ると自分の足元を、だ。 「モ、モンモランシー……君の使い魔は、足元にいるよ……」 「え?」 下を見ると、確かに使い魔のカエルはモンモランシーの足元に控えていた。 「じゃあ、この舌は一体……」 自分の頬を舐めていた舌の正体を訝しむモンモランシー。よく考えれば、ロビンのものだとしても 大き過ぎだ。振り返って後ろを見てみたら……。 「カアアアアアアアア!」 赤い二つの目玉を人魂のように爛々と光らせている、カエルによく似た新たな巨大怪獣が、 地面から首だけ出して舌を伸ばしていた。モンモランシーの頬を舐めていたのは、その怪獣の舌だった。 「ぎゃああああああああああああああああああああッ!!」 モンモランシーとギーシュが絶叫を上げた。才人はすぐに端末で怪獣の情報を調べる。 「あいつは、大蛙怪獣トンダイル!」 その背後では、相変わらず才人にピッタリくっついているルイズが、モンモランシーと ギーシュを足したものよりも大きな悲鳴を上げた。 「嫌ああああああああああああ!! カエルうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」 「うわぁッ!? お、おいルイズ!」 才人の身体からルイズの腕が離れたので、才人が慌てて振り返ると、彼女はコテンとその場に 倒れ込んで気絶した。小さなロビンも怖がるくらいだったので、超巨大なトンダイルを見て、 恐怖のあまり精神を保てなかったのだろう。 「ルイズ! ルイズったら!」 「駄目だぜ相棒。娘っ子、完全に気を失ってらあ」 才人が何度も呼びかけても、ルイズは目を覚まさない。デルフリンガーが呆れて言った。 「カアアアアアアアア!」 トンダイルは土の中から全身を出すと、才人たちには構わず湖の中に入る。そして口から 火炎を吐いて、テペトを追い詰めているミクラスを背後から攻撃した。 「グアアアアアアアア!」 背中を焼かれたミクラスが反り返ってよろめいた。その隙にテペトが持ち直し、反撃を行う。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 トンダイルも同時に攻撃を仕掛ける。ミクラスは前後から挟み撃ちで叩きのめされ、一気に 窮地に追い込まれてしまった。 「トンダイルもテペト星人の配下なのか……!」 状況からして、テペト星人はトンダイルも支配下に置いているようだ。ミクラスのピンチに 焦る才人だが、不幸中の幸い、一番厄介だったルイズが離れた。これでゼロに変身できる。 「みんな! ルイズを安全な場所まで連れてく! 気をつけてくれ!」 「分かったわ!」 素早くルイズを背負って仲間たちに告げると、デルフリンガーを片手にテペト星人の集団へ 斬りかかっていった。 「おらおらぁー! どけどけぇッ!」 目の前の敵を斬り伏せて強引に包囲を突破すると、全速力で森の中に姿を隠した。そして湖から 離れたところでルイズを降ろしてそっと木に寄りかからせた。スヤスヤ眠っている姿に、ほっと息を吐く。 「デュワッ!」 満を持してウルトラゼロアイを取り出し、顔に装着して変身した。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 テペトとトンダイルは、膝を突いたミクラスを容赦なく叩きのめし続けている。そこに、 森から飛び出したウルトラマンゼロが飛び蹴りの姿勢でラグドリアン湖へ急降下していく。 「ダァー!」 「カアアアアアアアア!」 鋭いゼロキックはトンダイルの頭部に決まり、トンダイルを横転させた。テペトはゼロの 乱入に驚いて、殴る手を止める。 「デヤァッ!」 「キャ――――――――!」 そのテペトの胸の中心にも横拳が入り、弧を描いて吹っ飛んでいく。敵怪獣を湖に沈めたゼロは、 ボロボロのミクラスを助け起こした。 『よく頑張ってくれたな、ミクラス。戻ってくれ』 ミクラスを気遣って、カプセルの中に戻した。それと同時に、トンダイルが水を掻き分けて起き上がる。 「カアアアアアアアア!」 トンダイルは口から、今度は赤い球体をいくつも吐き出してゼロへ飛ばす。これは本来 獲物を中に閉じ込め、冬眠中の保存食にするためのトンダイルカプセルだ。武器としても 使うことが出来るようだ。 『はッ! こんなヒョロ玉食らうかよぉ!』 しかしゼロはトンダイルカプセルを全て素手で叩き落とした。それからトンダイルに一瞬で飛び掛かり、 首元に水平チョップを入れる。 「カアアアアアアアア!」 『おらおらぁッ!』 早く鋭いチョップでひるませたところで、でっぷりと突き出た腹をボコボコに殴る。トンダイルは ゼロのラッシュになす術なく、大きくたじろいだ。 一見優勢なゼロだが、ここで違和感に気づいた。 『ん? テペトはどこ行きやがった?』 今湖面に立っている敵はトンダイルだけで、先ほど沈んだテペトが浮き上がってこない。 そう思った矢先に、 「キャ――――――――!」 『うおうッ!?』 水中を音もなく移動して近寄ってきていたテペトが、ゼロの足首をすくい上げて転倒させた。 仰向けに倒れたゼロに、すかさずテペトとトンダイルのタッグが覆い被さるように襲い来る。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 『ぐッ! こ、こいつら! げぶッ!』 ゼロはテペトに腹部を、トンダイルに顔面を踏みつけられ、湖の中に押し込まれていく。 「ゼロが危ないわ!」 「危ないのはこっちも同じだよぉ!」 キュルケが叫ぶが、直後にテペト星人がまた一人飛び掛かってきたので、火炎で黒焦げにした。 メイジたちは依然としてテペト星人と交戦しており、ゼロを援護する余裕はない。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 テペトとトンダイルはそれをいいことに、情け容赦なくゼロを水の中に沈める。テペトが ゼロの腹を散々に殴りつけ、トンダイルが顔を鷲掴みにして湖中にグイグイ押し込む。 すっかり水中に浸かったゼロだが、その瞬間に、彼の沈んだところから赤い輝きが巻き起こった。 『おらあああああッ! 調子づくんじゃねええぇぇぇぇぇぇぇッ!』 「キャ――――――――!?」 「カアアアアアアアア!」 直後に、怒声とともにストロングコロナゼロが超パワーで立ち上がり、その勢いでテペトと トンダイルをはね飛ばした。 即座に起き上がって二人がかり、いや二体がかりでゼロに襲い掛かるが、トンダイルは顎に 拳をもらい、テペトはみぞおちに肘鉄を入れられてあっさりと返り討ちにされた。 『ふんッ!』 更にゼロは二体の頭をむんずと掴むと、引き寄せてゴチン! と激しくぶつけさせた。 互いに頭を打った怪獣たちはフラフラと後ろへ倒れる。 「カアアアアアアアア!」 その内に、トンダイルが四つん這いの姿勢のまま逃亡を始めた。ゼロに敵わないと見ての行動だが、 トンダイルは根っからの人食い怪獣。みすみす逃がす訳にはいかない。 「セアッ!」 ゼロは通常の状態に戻ると、ほうほうの体で逃げるトンダイルの背にワイドゼロショットを撃ち込んだ。 必殺光線を食らったトンダイルは一瞬で爆散した。 トンダイルを倒したらテペトの番とばかりにゼロが振り返る。すると慌てたテペトが、 予想外の行動に出た。 「キャ――――――――!」 両手をこすり合わせて頭をペコペコ下げ、許しを乞い始めたのだ。 「怪獣が命乞いしてるわ……」 「呆れた……」 その光景を見たキュルケとタバサが、冷めた視線を送った。 「……」 ゼロは無言で腰に手を置き、テペトのことをじっと見つめる。テペトはすがりつくように、 黙ったままのゼロを拝み倒すが、 深く頭を下げた瞬間に、皿から怪光線を発射した! 『おっと!』 しかしそれは、ゼロが咄嗟にバツ印に組んだ腕にガードされた。それを見て、テペトは後ろに 倒れ込むと水中に潜り込み、泳いで逃げ出した。 『そんなしょっぱい騙し討ちに引っ掛かるかよぉ!』 言い放ったゼロは頭からゼロスラッガーを放り、水中に潜り込ませる。直後にザシュッ! と気持ちのいい音が鳴り、ふた振りのスラッガーが湖から飛び出してゼロの頭に戻った。 その後に、スラッガーに十字に切り裂かれたテペトの破片が四つ浮かび上がってきた。 「最後!」 ゼロが二体の怪獣を倒すのと、タバサが最後に残ったテペト星人にとどめを刺したのは ほぼ同時だった。地上に現れた敵が全て倒れると、ラグドリアン湖よりテペト星人の円盤が浮上し、 空へ向けて飛び上がる。このまま宇宙へ逃れようというつもりか。 「ジュワッ!」 しかしその円盤も、エメリウムスラッシュを受けて木端微塵に吹き飛んだ。敵を全滅させたと 判断したゼロは、空の彼方へと飛んで去っていった。 「みんなー。大丈夫だったか?」 元に戻った才人は、未だ眠り込んだままのルイズを背負い、岸辺へと帰ってきた。するとギーシュが咎める。 「遅いぞきみ! 敵はとっくにこのギーシュ・ド・グラモンが片づけてしまったよ」 「あんた、ほとんど何もしてなかったでしょ」 さっきまでの恐慌ぶりがどこへやら、見栄を張るギーシュにキュルケがツッコミを入れた。 そんな漫才のようなやり取りは置いておいて、モンモランシーが湖に目を向けて皆に呼びかける。 「みんな! 精霊の気配が戻ったわ!」 「本当か!? 良かった! これでルイズを元に戻せるな!」 それを聞いて、才人が一番喜んだ。 「水の精霊が戻ったのと、涙をもらえるかどうかは別の問題よ」 「細かいことはいいよ! とにかく、早く呼んでくれ」 才人に急かされて、モンモランシーがもう一度ロビンを湖中に送った。すると今度は、 水面が盛り上がって、水がアメーバのような形になった。これがモンモランシーの言う、 水の精霊らしい。 「水の精霊。わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。覚えていたら、わたしたちにわかるやりかたと 言葉で返事をしてちょうだい」 モンモランシーが呼びかけると、盛り上がった水はぐねぐねと形を変え、モンモランシーそっくりの 姿になった。才人は驚いて目を丸くした。 「覚えている。単なる者よ。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 水の精霊はモンモランシーに答えると、彼女が何か言う前に言葉を紡いだ。 「まずは、貴様たちが我を捕らえ、我を支配しようとした、この世界とは異なる外の世界から 現れた異な者どもを退けたことについて礼を言おう。我は湖の奥深くに身を隠しながら、全てを見ていた」 「水の精霊がお礼! そんなの、滅多にないことよ」 モンモランシーが驚愕してつぶやくが、才人は水の精霊の発言に関心を持った。 「それって、テペト星人のことか? やっぱり、あいつらがいたからあなたは隠れてたんだ。 テペト星人は、あなたを捕まえようとしてたんだな」 聞き返した才人に、水の精霊が肯定する。 「そうだ。あの異な者どもは、この世界の理とは異なる不可思議な力を用いて、我を支配しようとした。 当然我は抗ったが、奴らは水を阻む鋼鉄の船から出てこなかった故に、我は手出しが出来なかった。 そのため、我は身を隠す以外になかった」 「水の精霊は、水に関しては万能だけど、相手が水に触れなかったら無力なの。そこを突かれたのね」 モンモランシーが補足説明を入れた。 「テペト星人、そういう目的でここに潜んでたのか……。もし水の精霊が操られてたら、 大変なことになってただろうな」 「侵略者の魔の手って、精霊にまで及んでたのね……。今回は失敗だったけど、ぞっとするわね……」 才人とキュルケのひと言で、一同は背筋を寒くした。しかし今は才人たちに、最優先の目的があるのだ。 モンモランシーが頼み込む。 「水の精霊よ、お願いがあるの。あなたの一部がすぐに必要なの。わけてはもらえないかしら?」 その頼みを、水の精霊は快く引き受けた。 「よかろう。貴様らは我を脅かす者どもを退治した。その恩に報いるのが道理」 「やったわ! 精霊にお願いを通すのは、本当はとても難しいことなのよ。わたしたちは、 ある意味ラッキーだったわね」 水の精霊が細かく震えると、ぴっ、と水滴のように、その体の一部がはじけ、一行の元へととんできた。 それが『水の精霊の涙』だ。ギーシュが慌てて持ってきた壜で受け止めた。 水の精霊は用を済ませると、すぐに水底に戻っていきそうになった。だがそれをキュルケが呼び止める。 「ちょっと待った! アタシとタバサは、実はもう一つあなたに用があるのよね」 「え? そうだったんだ」 才人らが驚いた顔をしていると、水の精霊が戻ってきて、キュルケに問い返した。 「なんだ? 単なる者よ」 「あなたが湖の水かさを増やすのを止めて、この辺りの洪水を引いてもらいたいのよ。あー…… 水浸しになったせいで、タバサの領地に被害が出てるから、元に戻すようにとの使命も受けて アタシたちは来たのよ」 確かに、時期的に考えて、洪水とテペト星人の襲来は別問題。このままだと辺りの土地は元に戻らない。 だがキュルケの頼みは、水の精霊は断る。 「ならぬ。貴様らへの恩は、先ほどのもので返した」 だがキュルケは引き下がらない。切り込み方を変えてみる。 「だったら、水かさを増やす理由を教えてくれない? アタシたちに解決できることなら、 なんでもするから」 それを聞くと、水の精霊は少し間を取ってから、返答した。 「お前たちに、まかせてよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我への脅威を取り払った。 ならば信用して話してもよいことと思う」 前置きしてから、水の精霊は理由を語り出した。 「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」 「秘宝?」 「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど 交差する前の晩のこと」 おおよそ二年前ね、とモンモランシーが呟く。 「我は秘宝を取り返したいと願う。大地を水が浸食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。 水がすべてを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう」 「な、なんだそりゃ。気が長いやつだな」 途方もないほど時間の掛かるやり方に、才人が呆気にとられた。 「我とお前たちでは、時に対する概念が違う。我にとって全は個。個は全。時もまた然り。 今も未来も過去も、我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ」 水の精霊の目的を知ったキュルケがうなずく。 「分かったわ。だったらアタシたちでその秘宝を取り返してあげるわ。それでいいでしょ、タバサ?」 タバサもコクリとうなずいた。それからキュルケが肝心なことを聞く。 「なんていう秘宝なの?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 「なんか聞いたことがあるわ」 モンモランシーが呟く。 「『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与えるという……」 「そのとおり。死は我にはない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど 『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪が もたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」 「そんなシロモノを、誰が盗ったんだ?」 「風の力を行使して、我の住処にやってきたのは数個体。内の一人が、こう呼ばれていた。 『クロムウェル』と」 「聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」 キュルケのひと言で、才人たちは嫌な予感を覚えた。アルビオン新政府と、侵略者が与しているのは、 タルブでの一戦で明らかになったこと。もし『アンドバリ』の指輪をクロムウェルが盗んだのなら、 当然それは宇宙人たち、延いてはヤプール人の手元に……。 「偽りの命とやらを与えられたら、どうなっちまうんだ?」 「指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるというのは、不便なものだな」 「とんでもない指輪ね。死者を動かすなんて、趣味が悪いわね」 呟いたキュルケが、水の精霊に請け負う。 「分かったわ! その指輪を取り返してくるから、水かさを増やすのを止めて!」 水の精霊はふるふると震えた。 「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら、水を増やす必要もない」 「いつまでに取り返してくればいいんだ?」 「お前たちの寿命がつきるまででかまわぬ」 「そんなに長くていいの?」 「かまわぬ。我にとっては、明日も未来もあまり変わらぬ」 そう言い残すと、水の精霊はごぼごぼと姿を消そうとした。 「待って」 その瞬間、タバサが呼び止めた。その場の全員が驚く。タバサが他人を……、いや人じゃないけど、 呼び止めるところなんて初めて見たからだ。 「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」 「なんだ?」 「あなたはわたしたちの間で、『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。 しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。我に決まったかたちはない。しかし、 我は変わらぬ。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」 タバサは頷いた。それから、目をつむって手を合わせた。いったい、誰に何を約束しているのだろう。 才人たちにはとんと見当がつかなかったが、唯一事情を知るキュルケは、その肩に優しく手を置いた。 才人たち一行が水の精霊の涙を手に入れて、学院に帰還している頃。アルビオン大陸の、 新政府の中心地の城にある、皇帝クロムウェルの部屋の中で、クロムウェルと秘書のシェフィールドが 虚空を見上げていた。 するとその虚空が、突然音を立てて割れた。比喩の類ではない。本当に、ガラスを割ったかのように 空中が割れたのだ。そしてその中には、赤く歪んだ空間とその中で蠢く何人もの怪人の姿がある。 それがヤプール人。宇宙人連合をハルケギニア世界に引き入れ、今アルビオンを傀儡としている黒幕の正体だ。 『そうか。テペト星人が散ったか。これで連合も、大分数が減ったな』 ヤプールはテペト星人がラグドリアン湖でゼロに敗れたことの報告を受けた。だがそれを聞いても、 少しも憐れむ様子を見せず、それどころか呆れたように鼻を鳴らした。 『まぁ、どうでもいいことだ。所詮、あんなゴロツキどもにはあまり期待を寄せてなかった。 超獣を十分に育成するまでの繋ぎだ』 「それで、我が支配者よ。次はどのような手を打たれますか? このままウルティメイトフォースゼロに 大きな顔をさせておいては、人間どもが発するマイナスエネルギーが低下するものと思われますが」 クロムウェルが淡々と呟くヤプールに指示を仰いだ。 しかし、本物のクロムウェルはとっくに処分されている。成り代わったナックル星人も、 タルブ戦で息絶えた。だというのに、クロムウェルがまだいる。今度は一体何者が化けているのか。 『我らが支配者! 今度はわたくしめに出撃の命令を! 最早宇宙人連合など、アテにはなりませぬ』 クロムウェルの部屋に、緑色の目をした怪人がどこからか空間転移により現れた。両手は ハサミになっており、頭部には紅葉に似た大きなヒレが生えていて、その派手さにより目を引きつけられる。 この怪人の名はギロン人。どこの星の宇宙人かは定かにはなっていないが、雇われの宇宙人連合とは違い、 ヤプール人に直接仕えて忠誠を誓う異星人なのだ。 『私に超獣を何体かお貸し頂ければ、ウルティメイトフォースゼロなど、軽くひねってやりましょうとも!』 ゼロたちの強さを知ってか知らずか、やたら大きなことを述べるギロン人に、ヤプール人が返答する。 『ならぬ。超獣はまだ育ち切っていない。今のままではウルティメイトフォースゼロには勝てん。 超獣を出すのは、もっとマイナスエネルギーを集めてからだ』 『はッ! 出過ぎた真似を致しました!』 ギロン人はあっさりと申し出を取り下げた。ヤプール人に危ういほどに心酔しているようだ、 と傍観しているシェフィールドは評した。 『しかし、ギロン人、お前には出撃してもらうことにしよう。差し当たっては、こいつらを使うといい』 ヤプール人が片手を上げると、部屋の片隅の鉢植えが突然ガタガタと音を立てて揺れた。 シェフィールドらが目を向けると、その陰から正体不明の物体がいくつか這い出てきた。 「ほう、これらは……支配者よ、また面白いものをご用意されましたな」 シェフィールドは出てきたものが何か知らなかったが、クロムウェルとギロン人には心当たりが あったようだ。ニヤニヤと不気味な笑みを見せている。 『そしてもう一つ。ウルティメイトフォースゼロを釣り出すのに、餌が必要だ。その餌は、 こいつが適任だろう。入ってこい』 更にヤプール人の指示により、扉が外から開かれて金髪の凛々しい顔立ちの、だが顔に 生気が全く見られない、気味の悪い青年が入ってきた。 『まずはこいつを使って、トリステインの新女王、アンリエッタを釣り上げる。それで奴らは 必ず誘き出される。そこを一気に畳んでしまえ! ギロン人!』 『ははぁッ! お任せ下さい!』 背筋を正してヤプール人に応えるギロン人。 その背後に控えた、新しく入ってきた青年は、王党派と貴族派の最後の決戦の折に、 ワルドに殺害されたはずのウェールズ皇太子だった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9376.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十二話「侵入する死者たち」 巨大異形獣サタンビゾー 蘇生怪人シャドウマン 登場 「はぁ、はぁ……」 深夜。魔法学院の近くの森の中を、才人が疾走していた。息を切らしながらも足を止めずに、 月明かりのみを頼りに木々の間をすり抜けていく。 すると才人の感覚が、暗闇の中から殺気を捉えた。才人は反射的にデルフリンガーを抜き、 殺気のする方向へ構える。 直後、闇を切り裂いて白刃が襲い掛かってきた。ガギィンッ! と鋭い金属音が鳴り響き、 デルフリンガーが白刃を受け止めて弾いた。 襲撃者がヒラリと宙を舞い、才人の正面に着地した。細身の剣を片手にし、黒いローブで 姿を隠している。才人は声を荒げる。 「誰だ! 正体を見せろッ!」 才人はこのローブの者が学院に近づいている気配を感知して、言い知れぬ危険を覚え、 こうして森の中まで打って出てきたのであった。 「フフフ……」 ローブの襲撃者は不敵に笑うと、バッと勢いよく自身のローブをはぎ取った。下から現れた姿に、 才人は唖然と言葉を失った。 「なッ……!? そ、その顔は……!」 ローブからさらけ出された顔は、才人のものと瓜二つ……どころか、完全に同じものであった。 才人の顔をした黒い装束の男は、才人に告げる。 「俺はお前さ、平賀才人! ただの人間だったのに、ルイズに召喚されたというだけで戦争と陰謀に 巻き込まれ、挙句ウルトラマンゼロとなって戦う宿命を背負わされた……!」 「馬鹿なことを抜かすな! 大方、またガリアからの刺客ってところだろ!」 黒い才人の発言に、才人は怒りを見せる。 「俺そっくりの顔になって、何をたくらんでやがる! またルイズをさらおうとしてるのか、 それともティファニアか、タバサか!?」 「フフフ……」 詰問する才人だが、黒い才人は意味深に口の端を吊り上げる。 「随分必死だな。そんなにあの女たちを守りたいか? お前に辛く苦しい戦いを強いるあいつらをッ!」 「何!?」 「お前が戦いの日々を送るそもそもの原因は、この世界に呼び出したルイズだ。タバサはお前に 襲い掛かった上に、ガリアへの侵入という危険な橋を渡らせた! そしてこのハルケギニアという 世界があったために、お前は故郷の家族、友人から引き離されている! 本心では自分を散々に 振り回すこの世界が恨めしいだろう!」 「何を馬鹿なことをッ! そんなことがある訳が……!」 「いいや、お前の心の底にドロドロとした黒い感情があるのを、俺は知っているぞ。何故なら、 俺はお前の心の奥にいる怪物だからだ!」 黒い才人が堂々と宣言すると、デルフリンガーが才人に向けて発した。 「惑わされるな、相棒! あいつの言うことなんざ、何の根拠もねえ出まかせに決まってらあ!」 「ああ! 俺の心を乱そうたって、そうはいかねぇぜ! お前が何と言おうと、ルイズたちには 近づかせねぇ!」 デルフリンガーに激励され、才人は黒い才人に切っ先を向け直した。一方の黒い才人は、 自分の言葉がはねつけられても不敵な笑みを崩さない。 「フフフ……俺の言うことが惑わしかどうか……とくと見るがいいッ!」 黒い才人の全身が不気味な怪光に覆われたかと思うと、急激に膨れ上がって一体の巨大怪獣へと 変貌を遂げた! 「フォッフォッフォッフォッフォッ……!」 中心に黄色い発光体が縦に走る、首と胴体が一体化したような怪獣。まるで地獄の怪物が そのまま地上に這い出てきたような、異形の姿だ。 その名もサタンビゾーという。 「! それが正体か……!」 サタンビゾーが出現するとすぐに、才人はウルトラゼロアイを装着して変身を行う。 「デュワッ!」 才人の身体がまばゆい光に包まれ、サタンビゾーと同等の体格のウルトラマンゼロへの 変身を完了した。 「フォッフォッフォッ!」 才人から変身したゼロに対して、サタンビゾーは黄色い発光体から光弾を連射して先制攻撃を行う。 「シャッ!」 だがゼロはバク転して光弾を回避。するとサタンビゾーは右手から二本の長い鉤爪を伸ばし、 接近戦に切り替えてゼロに詰め寄ってきた。 「フォオオオオッ!」 ゼロは戦士の勘で、鉤爪を食らったらまずいことを察知した。そのためサタンビゾーの爪の 切り裂きを、身体を傾けて回避。 「ゼアッ!」 上体を戻したゼロは両手にゼロスラッガーを握り、今度は鉤爪を迎え撃ちに前に飛び出した。 「セェアッ!」 駆け抜けながらスラッガーを走らせ、鉤爪を半ばから切断した! そしてゼロは地面を滑りながら左腕を横に伸ばし、振り向きながらワイドゼロショットを発射! 「シェアアァァッ!」 ワイドゼロショットは見事にサタンビゾーの中心を捉え、たちまちサタンビゾーを霧散させて 消滅せしめた。 これで勝った、と思われたが、サタンビゾーは消えたのに黒い才人の声がどこからともなく こだまする。 『これが終わりではないぞ……むしろ始まりだ!』 「!?」 ゼロは辺りをくまなく見回したが、声の主の姿はどこにもなかった。 『俺は常にお前のすぐ側にいる……そしてお前たちは、仲間と呼ぶ者の心の闇に呑まれ、 滅びを迎えるのだ!』 『俺たちが、仲間の心の闇に呑まれるだって……? 馬鹿言うなッ! そんなことがあるもんか!』 才人が言い返したが、それを最後に黒い才人の声は聞こえなくなった。 どうにもすっきりしない終わりであったが……これ以上何かしら出来そうなことは見当たらなかった。 ゼロは変身を解き、才人の姿に戻っていった。 翌朝。才人を除いたオンディーヌは今日も朝から騎士隊の訓練……ではなく、杖を箒に 持ち替えてアウストリの広場へとやって来ていた。無論、掃除など本来は使用人の仕事 なのだが、女風呂の覗きの件で、教師たちより一ヶ月間訓練の時間に奉仕活動を行うという 罰を下されたのだ。一時は退学の話も持ち上がっていたのだから、これくらいで済んで 御の字といったところか。 そんな訳で今日も使用人に代わり、朝の広場の掃き掃除に来たオンディーヌだったが、 そこではいつもと違う光景……いや、明らかに異常な事態が発生していて、全員面食らって 絶叫した。 「な、何だこりゃあああぁぁぁぁぁッ!?」 「ひ、人が転がってる……! しかも十人もッ!」 何とアウストリの広場の至るところに、人間が倒れているのだ。計十人の男性。 「だ、大丈夫ですか!?」 マリコルヌが一番近い男の側にしゃがみ込んで呼びかけたが、反応がない。マリコルヌが 男の首筋に触れると、石のように冷たいことが分かった。体温がない。 「ひぃぃぃぃぃぃぃッ!? し、死んでるッ!」 思わず腰を抜かすマリコルヌ。レイナールは呆然とつぶやく。 「まさか……ここにいる全員、死体か……!?」 その言葉の通りであることが、騎士隊の手によって確認された。倒れている全員に息がなく、 身体が冷たかった。 ギーシュが冷や汗だらけになりながらも、隊員の一人に指示を出した。 「すぐにオールド・オスマンと教師たちに報せてきてくれ! 急げ!」 アウストリの広場に遺棄された、十人分の死体の話はすぐに学院中に広まった。怪獣の襲撃とも 宇宙人の侵略とも違う、まるで怪談のような話に学院の人間は総じて震え上がった。 教師陣は生徒たちに寮塔からの一時外出禁止を命じると、自分たちの手で死体を調べる。 その結果を、コルベールがオスマンに伝えた。 「オールド・オスマン。軽く検死しましたが、これらの遺体は病死したものではないようです。 ですからひとまずは、疫病の恐れはないかと」 「そうか。最悪の事態にはならんようで、まずはひと安心というところじゃな」 「ですが、明確な死因も見ただけでは不明です。全部の遺体に、身元が分かるような物も ありませんでした」 「ふむ……。彼らがどこの誰で、何故死んで、どうして学院の敷地内にいるのか。その全部が 現状では分からないということか」 「ええ、その通りです。死因に関しては、詳細な検死をすれば突き止められるでしょうが、 学び舎でそれをするというのは……」 さすがに躊躇われた。学院の医務室は簡素なもので、検死をしようものなら死臭が辺り 一面に染みつく。 「そうじゃな。このことは王宮に報告し、遺体はそちらに引き取ってもらおう。準備に一日程度は 掛かるじゃろうから、これらの遺体は今日は礼拝堂に安置しよう。さすがに野晒しにするのはあんまりじゃて」 オスマンの判断により、死体は一つ残らず教師たちがレビテーションで礼拝堂へと運び込んだ。 「しかし、一体誰がこんなことを……。こんな珍事は聞いたこともないぞ」 「悪質な嫌がらせだろうか。その割には手が込んでるが……」 教師の間でそんな声も上がった。 死体が片づけられると戒厳令は解除され、授業が再開されたが、生徒たちは死体に関する噂話で 持ちきり。その日一日、まるで授業にはならなかった。 死体騒動があった日の放課後、才人は寮塔の部屋でルイズとその件の相談をしていた。 「ルイズ、もちろん聞いてるよな。今朝の広場に放置されてたっていう死体のことだ。どう考えても 普通じゃない。これもまた何者か、悪い奴のたくらみじゃないかって俺は思うんだ」 「え、ええ、そうね。普通じゃないわよね」 椅子に腰かけているルイズは、コツコツと不機嫌そうに貧乏ゆすりしている。一方で部屋の 片隅から、ペラリとページをめくる音がした。 「実は昨晩、俺は怪しい奴と戦ったんだ。俺そっくりの姿をした奴で……そいつはこれから 何かが始まるということをほのめかしていった。その直後にこの騒ぎだ。偶然なんかじゃないと思う」 ペラリ。 「そ、そうね。偶然なんかじゃないわよね」 「けどこれが一体何の狙いなのか、あの死体は何なのか……。さっぱり見当がつかない。 ルイズ、お前も警戒をしといた方がいいぜ」 ペラリ。 「え、ええ。警戒した方がいいわよね」 「……もしもし、ルイズさん? ちゃんと話聞いてる? 何をそんなに機嫌悪そうなんだよ」 才人がそう言うと、ルイズは弾かれたかのように立ち上がって叫んだ。 「はぁ!? わたしは何も機嫌悪くなんかしてないわよ! するもんですか! 何故かタバサが この部屋に居座って動こうとしないってことなんかでッ!」 ルイズが目を向けた先、畳の隅で、タバサは体育座りして本を読んでいた。さっきから しているページをめくる音は彼女から発せられたものだったのだ。 「タバサ! あんた何でさっきから、当然とばかりにここにいるのよ! 黙ってないで何か 言いなさい!」 ルイズが怒鳴りつけると、タバサは顔を上げて短く答えた。 「護衛」 その視線の先には、才人の顔。 「え? 俺の、ってこと?」 タバサはコクリと小さくうなずいた。 「今言ったように、異常なことが起きてる。だから、いざという時のために」 「い、いや、いいよ護衛なんて。確かに警戒すべきとは言ったけどさ、何もお前がそこまで しなくても。まさかひと晩中ここにいるって訳でもないだろ?」 才人は苦笑してそう言ったが、タバサは肯定の沈黙を保った。 「……え? 本気で? ここに泊まるって言うの?」 「ちょっとタバサ!」 ルイズが我慢ならずに腰を浮かし、タバサを威圧するように見下ろした。 「あんたがサイトに恩義を感じてるってのは分かるわ。それでサイトに協力するというところまでは、 納得できる。けれどそれは行き過ぎじゃないかしら。サイトのナイトのつもりなの?」 タバサは本から顔を上げ、真正面からルイズに返答した。 「つもり、じゃない」 ルイズの目が細まった。 「……ねぇタバサ。“わたしの”使い魔に対して、お節介が過ぎるんじゃないかしらね」 タバサはいよいよ立ち上がって、ルイズと面と向き合って嫉妬のこもった視線を受け止めた。 「だから?」 ルイズが杖を抜き、身体からゆらりと強大な魔力のオーラを立ち昇らせた。タバサの方も、 冷たい雪風のようなオーラが身体に巻きつく。 一触即発な雰囲気に焦ったのは才人だ。 「お、おいおいおい! 落ち着けよ二人とも! お前たちで争ってどうするってんだ。ともに 学院を守る仲間同士なんだからさ、穏便に行こうぜ」 「サイトさん、ただいま戻りました」 必死になだめているちょうどその時にシエスタが洗濯物を取り込んで戻ってきた。才人は これ幸いと、話をそらす。 「し、シエスタ、外の様子がどうだった?」 「今のところは、特に変わったことはありませんでした。ねぇジャンボットさん」 『うむ。何か異常が起これば、私のセンサーがすぐにキャッチする』 それを受けて、才人はタバサに向き直って説得した。 「ほら、ジャンボットも見張っててくれてるしさ、お前が気を張り詰めてることはないんだ。 まだ何か起きると決まった訳でもないし、お前は自分の身の周りを警戒してくれてるだけで いいんだよ。何かあったらすぐに呼ぶからな?」 才人に説かれて、タバサはやっと己の部屋に戻っていった。しぶしぶ。 タバサを帰してから、ゼロがこんなことを告げた。 『才人、タバサにはああ言ってたが、俺は親父から似たような事件の話を聞いたことがある』 「えッ、そうだったのか?」 『ああ。相当てこずらされたヤマだったらしい。昨晩のこともあるし、俺たちも気を引き 締めなきゃならねぇぜ』 そのゼロの意見に、才人たちは一層の警戒を強めるのであった。 自室に戻ったタバサは、ベッドに腰掛けてぼんやりと思案をしていた。何を隠そう、才人のことだ。 タバサはウルトラマンゼロ――才人に人生を救われて以来、ハルケギニアを覆う強大な 邪悪に敢然と立ち向かう勇者である彼に、己の命を捧げる騎士となることを心に誓った。 そのため才人の危機には駆けつけて助け、彼が読み書きを自習しようとしていた時にはつきっ切りで 教えた。騎士はみっともない格好ではいけないので、身なりにも気をつけるようになった。 しかし……そんなに才人に献身的になったのは、恩義を感じているからだけが理由なのだろうか? シルフィードは、タバサの様子を見ていて「タバサが恋をしている」と騒いだのだ。それが気に掛かった。 身なりに気をつけるのは、才人に自分をより良く見てもらいたいからではないか。勉強の時に 自分の部屋に連れ込んだり、ルイズの精神力を回復させるためとはいえ濃厚なディープキスを かましたりしたのは、騎士としてはやり過ぎだったのではないのか。そこまでの行動に出たのは、 やはり彼に惹かれているからでは……。 頭によぎった考えを、タバサは振り払った。母の身は救い出せても心は未だ戻らず、ジョゼフも 暗躍を続けている現状、のんきに恋をしている暇などない。それに、騎士が仕える主に分不相応の 想いを抱くなんて以ての外だ。だから彼に向ける感情は、恋ではないのだ。そう己に言い聞かす。 だけど恋ではないと言い聞かすと……何故だかほんの少し切ない気分になる。タバサは そんな自分の感情が不思議で、悶々としてしまった。 「パムー?」 クッションを敷き詰めた籠の中に身体を丸めていたハネジローが、己を落ち着かせようと 杖をギュウッと抱きしめたタバサの様子を、怪訝そうに見つめた。 その日の深夜……。日付が変わる時刻を過ぎた、地球の日本で言えば丑三つ時に相当する 時間帯の頃に、遂に異変は起こった。 礼拝堂には十人分の死体が安置されており、警備の衛兵が二人、万一の事態のために見張りを している。その片方が、不意にもう一人に呼びかけた。 「なぁ……何だか変な感じがしないか?」 「は? 変な感じって……どういうことだ?」 話しかけた方が、不安な面持ちで礼拝堂の内部を見回す。 「何だか……気配がするんだ。人の気配が……」 「お、おいおい! 怖いこと言うなよ! こんな場所でさぁ!」 相方の衛兵は顔を青ざめさせ、死体を横たえさせている長椅子の方を見やった。特に死体が 動いているとか、そんな様子は微塵もない。 「幽霊でも出たって言いたいのか? はは、幽霊なんて気のせいだよ。気を張り詰め過ぎて、 錯覚がするだけさ」 「そ、そうかな……。確かに感じたんだけど……」 衛兵Aがつぶやいていると、いきなり礼拝堂のどこかでガタンッ! と大きな物音がした。 「ひッ!? な、何の音だ!?」 衛兵Bも、今の音でさすがに震え出す。 「か、風で物が倒れたんじゃないか?」 「ば、馬鹿言うなよ! 今のは明らかに中からした音だったし、この学院の礼拝堂が、隙間風が 入るような安普請なもんか!」 「じゃあ、今のは何の音だっていうんだ!? 俺たちの他には誰もいないぞ!」 「そ、そんなの知るかよ……」 衛兵Aが視線を正面に戻し……途端に悲鳴を上げた。 「ぎゃああああッ!?」 「おいどうした!?」 「あ、あれ……! 俺の見間違いじゃないよな……!」 衛兵Aが指した先には、運び込まれた死体。やはりゾンビか何かのようにひとりでに動く 様子はなかった。 だがランプの明かりに照らし出された影が、何もしていないのに勝手に立ち上がっていく! 「ひぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!?」 二人の悲鳴がそろった。彼らの見ている先で、次々立ち上がった影が死体の男たちと同じ姿に 変化する。ただし半透明だ。 それはもう幽霊としか思えなかった! 幽霊の集団が腕を振り上げて、衛兵たちに近づいてくる! 「た、大変だぁッ! 外のみんなに伝えないと――ッ!」 恐怖で震え上がる衛兵たちだったが、それでも己らのやるべきことを思い出して、この事態を 学院中に知らせようとした。 が、幽霊たちから怪しい霧が噴出され、衛兵二人の首に纏わりついた。 「うがぁッ……!? い、息が出来なッ……!」 霧は二人の首を絞め、衛兵たちは呼吸が出来なくなって気絶。その場に崩れ落ちた。 衛兵をたちどころに無力化した幽霊の軍団は、影の状態となって礼拝堂の扉を開いた。 そして外に出て、学院中に散らばっていく。廊下の壁を、人の影だけがズルズル動いていった。 どこからともなく現れ、アウストリの広場に倒れていた十体の死体……その正体である 怪人シャドウマンが、活動を開始したのであった……! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9123.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十八話「狙われない少女」 電脳魔人デスフェイサー 四次元ロボ獣メカギラス ロボ怪獣メガザウラ 侵略変形メカ ヘルズキング カプセル怪獣ウインダム カプセル怪獣ミクラス 反重力宇宙人ゴドラ星人 サーベル暴君マグマ星人 異次元宇宙人イカルス星人 憑依宇宙人サーペント星人 登場 ある日突然現れた、マグマ星人ら宇宙人連合に狙われる地球人の少女、春奈を保護した才人とルイズ。 それから連合の刺客を撃退する日々を過ごしている中で、二人はアンリエッタにトリスタニアへと招集される。 実はトリスタニアの街の修理工に宇宙人連合の工作員が混じっていることが発覚したのだが、時既に遅し。 侵略者の作戦は発動し、トリスタニアが強力なロボット怪獣軍団の襲撃を受ける事態になってしまった。 すぐにウルティメイトフォースゼロが出動したが、そこに出現したのが、ネオフロンティアスペースで造られた 最強ロボットのデスフェイサー。デスフェイサーの圧倒的な力の前にゼロは惜敗。更に別働隊の宇宙人たちに 魔法学院が制圧されてしまった! トリステインそのものにもレコン・キスタの魔の手が迫る中、才人とルイズは 学院の仲間たちを救うために、一路魔法学院を目指すこととなった……。 「くッ……!」 ロボット怪獣のトリスタニア攻撃の翌朝。学院へと続く森の中の一本道を走る馬の上で、 才人が苦しそうに脇腹を抑えた。昨日はゼロに変身している時に、デスフェイサーに叩きのめされた。 そのダメージが才人の身体にも影響しているのだ。ウルトラ族の超回復能力で、ひと晩でかなり 回復したが、それでもまだダメージが残っている。 「サイト、大丈夫!?」 脂汗を浮かべる才人に、並走しているルイズが案じて呼びかけた。 「あ、あぁ……。このくらい、平気さ」 才人は努めて明るい声を出すが、顔を見れば、無理をしているのが明らかだった。それで ルイズはますます心配する。 「やっぱり、傷が治り切ってないんじゃない。こんなに飛ばしてたら響くでしょう。急がなきゃいけないのは 分かるけど、せめて、もう少しスピードを落としたら……」 と気遣うが、才人は頑なに断った。 「駄目だ。今こうしてる間にも、学院のみんなが危ないかもしれないんだ。何より……学院には 春奈を残してる!」 春奈の名前が才人の口から出ると、ルイズは密かに眉をひそめた。 「宇宙人たちはどういう訳か、ずっと春奈を狙ってた。春奈が一番危ないんだ。あいつが 何かされる前に、何とか助けないと……!」 「……そうね……」 口では同意するものの、ルイズは才人に心配され続ける春奈に、こんな時でも嫉妬した。 (サイトの馬鹿……。気持ちは分かるけど、今隣にいる、あんたのご主人様のことを少しは考えなさいよ……) 「どの道、宇宙人たちを追い払わなきゃ、トリステインは救われないんだ。モタモタしてる暇はない」 才人はルイズの気持ちを少しも察せず、彼女の嵌めている『水のルビー』の指輪を通して ミラーナイトに尋ねかけた。 「ミラーナイト、本当に侵略者たちは学院を制圧したんだな?」 『ええ。鏡越しに偵察して確かめました』 ルビーからミラーナイトが肯定した。 『リーダーはマグマ星人。トリスタニアに出現したイカルス星人の姿もありました。学院の各地には、 エビ型の宇宙人が多数配置されています』 『ゴドラ星人だな……親父から聞いてるぜ』 ゼロがエビ型という特徴から言い当てた。 「みんなはどうなってる? 春奈は? シエスタとか、キュルケたちは?」 『ほとんどは食堂に集められて見張られています。シエスタはジャンボットが誘導して逃がしたようですが、 ハルナは……すみませんが、確認できませんでした。あまり踏み込めば、鏡越しでも敵に気取られる危険が ありますので。申し訳ございません』 肝心の春奈の安否を突き止められずに謝罪するミラーナイト。 「いいんだ。それより、もうすぐ学院だ。どこか、敵に気づかれずに入り込めそうな場所を教えてくれ」 森を抜けて、いよいよ学院が見えた。これから乗り込もうとする才人とルイズなのだが、 その時に突然二人を地揺れが襲う。 「きゃッ! な、何!? 敵!?」 地揺れに驚いて、馬が足を止めてしまう。そしてルイズたちの正面の大地が突然裂け、 下から目下の最強の敵、デスフェイサーがせり上がってきた! 「し、しまった! 俺たちを待ち伏せしてたのか!」 進行方向をデスフェイサーに遮られた才人とルイズは横にそれようとしたが、左右と背後も、 はるか上空や異次元から出現したメカギラス、メガザウラ、ヘルズキングに塞がれてしまった。 「キィ――――――!」 「ギャアアァアアアアァ!」 「ゴオオオオオオオオ!」 「ま、まずいわ! 逃げ場がない!」 四方をロボット怪獣たちに囲まれて、ルイズらは立ち往生する。しかし、すぐに二人の仲間が 助太刀に駆けつけてくれた。 『はぁぁぁッ!』 『ジャンファイト!』 『テメェらー! リターンマッチさせてもらうぜ!』 ルビーの輝きからミラーナイト、空の彼方からはジャンボットとグレンファイヤーがやってきて、 メカギラス、メガザウラ、ヘルズキングにぶつかって食い止めた。だがまだデスフェイサーが残っている。 才人は学院を乗っ取った宇宙人と戦わなくてはいけないので、ゼロに変身することは出来ない。 「こんな時は……行けウインダム! ミクラス!」 そのため才人はデスフェイサーの前にカプセル怪獣を召喚した。それも今回は二体だ。 「グワアアアアアアア!」 「グアアアアアアアア!」 カプセルから解き放たれ、大地に立ったウインダムとミクラスは、即座にデスフェイサーに 向かっていってその両腕にしがみつき、進行を抑え込む。 「頼んだぞ、ウインダム、ミクラス!」 「早く行きましょう! みんなの頑張りを無駄には出来ないわ!」 仲間たちが足止めをしてくれている間に、才人とルイズは戦場をすり抜け、学院へと急いだ。 『さっきミラーナイトから侵入口を聞いた! 俺が誘導するぜ!』 そしてゼロの導きにより、二人は学院の内部への侵入を決行した。 トリステイン魔法学院は、多くのメイジ、つまり貴族の子息が集まる教育機関。そのため、 彼らを狙うテロリストへの対策がいくつも用意されている。その一つが、噂ではコルベールが 密かに利用しているという地下の隠し通路。そこはマグマ星人たちの目を逃れていた。 そして才人たちはそこを通り、無事に学院内への侵入に成功した。 『……よし、敵はまだ俺たちの侵入には気づいてないみたいだ』 校舎内の廊下に忍び込むと、ゼロが超感覚を働かせて近くの敵の有無を調べた。それから 才人とルイズに告げる。 『その辺にいる奴らをいちいち相手してたら、人質に危険が及びかねない。ここは一気に 首謀者のマグマ星人のところまで行くぞ。ミラーナイトの話じゃ、学院長室を占拠してるみたいだ。 まずはそこまで……』 話の途中で、廊下の先から、二人分の足音がコツコツと響いてきた。 「誰か来るわよ! 敵じゃない!?」 『いや、これはゴドラ星人の足音じゃない……。こいつは……』 ルイズたちの元に歩いてきたのは、キュルケとタバサの二人組だ。すぐに才人が呼びかける。 「キュルケ、タバサ! お前たち、無事だったんだな!」 二人に近寄ろうとするが、それをデルフリンガーに制止された。 「近づくな相棒! 何だか様子が変だぞ。……妙な魔法の気配がしやがる」 「魔法ですって!?」 驚くルイズと才人に向けて、キュルケとタバサは杖を向け、炎と氷の魔法で攻撃してきた! 「うわぁッ!?」 才人は咄嗟にデルフリンガーを盾にして、魔法を吸収した。だがキュルケたちは前に乗り出し、 更に激しく魔法を飛ばしてくる。才人はルイズをかばいつつ、どうにか攻撃をしのぐ。 「くッ、どういうことだ!? どうして二人が俺たちを攻撃するんだ!」 「きっとウェールズ殿下みたいに、魔法で操られてるのよ! 敵にメイジが混じってるんだわ!」 「二人に反撃する訳にはいかないし……ルイズ、『ディスペル』を頼む!」 魔法を解く『ディスペル』を詠唱し出すルイズだが、その途端にキュルケとタバサは攻め手を より強めて、爆発の衝撃で詠唱を妨害した。 「きゃッ! これじゃ『虚無』が使えないわ!」 狭い廊下では、ルイズを二人の攻撃の届かないところまで逃がすのは無理がある。どうしたものか、 と才人が下唇を噛み締めていると、ゼロが申し出た。 『才人、一瞬だけ俺に代わってくれ。ウルトラ念力で二人を止める!』 「え? でも、一瞬だけ止めても意味ないんじゃ……」 『説明してる暇はない! とにかく、俺に任せてくれ!』 ゼロがそう頼むので、才人はその通りに従った。意識が表面に出たゼロは、即座に精神を 集中させてウルトラ戦士共通の超能力、ウルトラ念力を発動する。 「むんッ!」 目に見えない力がキュルケとタバサの身体を縛り、一瞬だけ完全に動きを停止させた。その瞬間、 「今だシエスタ君! 行くぞッ!」 「えーいッ!」 曲がり角の陰からコルベールとタバサが飛び出し、キュルケとタバサの耳に耳栓を嵌め込んだ。 すると二人がガクリと崩れかけ、すぐに目に光を宿して起き上がる。 「あ、あら? どうしてルイズがいるの? アタシたち、どうしてたのかしら……?」 「確か……敵と戦ってて……そこから、記憶がない……」 「ミスタ・コルベール!? シエスタまで! これってどういうこと?」 突然現れたコルベールたちの姿に、ルイズと才人は驚愕する。いささか混乱する二人に、 シエスタらが状況の説明をする。 「順を追って説明しますね。お二人が王宮に向かった昨日、学院をウチュウ人たちが占領しました。 わたしはジャ……いえ、運良く魔の手から逃れて、コルベール先生に助けてもらいました」 「わたしは今、侵略者から学院を取り返そうと動いてるところだ。その途中で騒ぎを聞きつけ、 この場に出くわしたという訳だ」 続いて、キュルケの説明。 「アタシも同じよ。タバサと一緒にウチュウ人たちと戦ってたんだけど、そこに誰が現れたと思う? ウェザリーよ! ウェザリーは侵略者の、レコン・キスタの仲間だったの!」 「ウェザリーが!?」 意外な名前を耳にして、仰天するルイズと才人。 「まぁアタシは演劇してた時から、彼女が怪しいと思ってたけど。劇団ということを差し引いても、 ウェザリーの周りには怪しい奴らの影が見え隠れしてたから。結局、後手に回っちゃった訳だけど……」 「ウェザリーが現れてから……記憶が一切ない。きっと、彼女の催眠魔法。それも、一般の 社会に伝わってない、独特なもの。わたしたちは、それにやられてしまった……」 「で、ミスタ・コルベールたちが耳栓をしたら、元に戻ったのね」 タバサの説明で、ここまでの状況を納得するルイズ。 「でもミスタ、よく敵の魔法の正体が分かりましたね。それも、耳栓で解けるなんて」 「いや、わたしが暴いたんじゃないよ。先に敵がオールド・オスマンを操ろうとして失敗したことで、 学院長が突き止めたんだ。それを学院長の使い魔のモートソグニル越しに、対抗策も含めてわたしに 教えてくれたんだ。耳栓には特殊な風の魔法を掛けてるから、一時的に催眠魔法を無効化する。 君たちもつけていきなさい」 ルイズと才人はコルベールから耳栓を受け取り、耳に嵌めた。その直後に、廊下の奥から ゴドラ星人の集団がこちらに向かってきた。 「いかん、今の騒ぎで敵に気づかれてしまった! 戦いは嫌いだが……やむをえん、ここは わたしが食い止める。ミス・ヴァリエールとサイト君は、学院を解放しに来たんだろう? 敵のリーダーがいる、学院長室に急いでくれたまえ!」 「不死身のダーリンなら、ウチュウ人たちをやっつけてくれるわよね。学院をお願いするわね!」 「わたしたちは、ミスタ・コルベールと時間稼ぎをする」 「分かった! ありがとう!」 シエスタは戦う力がないので避難しようとするが、その前に一つだけ、才人たちに伝えた。 「ハルナさんのことですが、わたし、ハルナさんが学院長室に連れてかれるのを見ました! 早く行ってあげて下さい!」 「本当か!? あぁ分かった、春奈は絶対救い出す! シエスタも気をつけてな!」 コルベールらがゴドラ星人の足を止めている内に、才人とルイズは学院長室への階段を 急いで駆け上がっていった。 「グワアアアアアアア!」 「グアアアアアアアア!」 学院の外では、カプセル怪獣にウルティメイトフォースゼロが、ロボット怪獣軍団に苦戦していた。 ウインダムはデスフェイサーのシザーアームに首を締め上げられ、ミクラスはガトリングガンの連射を 食らって横転した。 「キィ――――――!」 『ぐぅッ!』 ミラーナイトは次元移動で背後に回ったメカギラスに側頭部を強かに殴りつけられる。 「ギャアアァアアアアァ!」 『ぬおおおおッ!』 ジャンボットはメガザウラの大火力に拘束される。 「ゴオオオオオオオオ!」 『ぐはぁッ!』 グレンファイヤーはヘルズキングのパンチに見せかけたビーム砲の近接射撃を食らい、 吹っ飛ばされた。 『くぅッ……ゼロ、急いで下さい……!』 敵に翻弄される中で、ミラーナイトがゼロたちに向けてつぶやいた。 「うりゃあーッ! だりゃあッ!」 才人は移動の途中、あちこちから飛び出てくるゴドラ星人を斬り捨て、またはゼロアイのビームで 撃って返り討ちにしながら、道を突き進んでいった。ルイズはその後に続く。 「サイト、すごい……」 破竹の勢いで敵を蹴散らす才人に驚嘆するルイズだが、彼が頑張る理由が春奈にあると 意識すると気分が沈む。それを慌てて払いながら、才人についていった。 そしてほどなくして二人は、学院長室にたどり着いた。才人はすぐに扉を蹴破り、中に踏み込む。 『おいおいおいおいッ! 地球じゃノックは足でするもんなのかぁ!?』 『イカカカカカ! デスフェイサーを相手にしてひと晩で、ここまで来られたのは褒めてやろうじゃなイカ! イカカカカカカ!』 中で二人を待っていたのは、マグマ星人とイカルス星人に、ゴドラ星人が一人。そして、壁際にウェザリー。 「ウェザリー! 本当に、宇宙人たちの味方に……!」 「ウェザリー! どうしてそいつらに肩入れしてるの! そいつらがどういう連中か分かってる訳!? わたしたち人間の敵なのよ!」 ルイズが詰問したが、ウェザリーは何も答えず、黙ったままたたずんでいた。 そして学院長室の床には、気絶した春奈が倒れていた。 「春奈! お前ら、春奈に何かしたんじゃないだろうな!?」 才人が怒りを露わに、宇宙人たちを問い詰めると、ゴドラ星人が肩を上下に揺らしながら答えた。 『クックックッ……どうだろうなぁ『イカカカカカ!』? 自分の目で、その娘が『イカカカカカカカ!』 どんな状態か、確かめてみたらどうだ『イーカカカカカカカカカ!』うるさいぞイカルスッ!』 しつこく笑い続けて台詞を妨害するイカルス星人に憤怒するゴドラ星人。そんなものは放置して、 才人は宇宙人たちを警戒しながら春奈を抱き寄せる。 「春奈! 春奈! 大丈夫か!?」 『完全に気絶してるな……だが、命に別状はないみたいだ』 ゼロが春奈の容態を診察した。ウェールズなどの前例があるので、敵の変身や懐に怪獣を 潜ませているかも調べたが、そんな様子はなかった。 しかしだとすると、分からないのが、何故敵があれだけ執着した春奈をこうもあっさり返したかだ。 才人が春奈を背後に寝かせると、ゼロはマグマ星人らに問う。 『そろそろ教えてもらうぜ。お前ら、どうして春奈をこの世界にさらってきた。そして今は、 何をしようっていうつもりだ?』 『クックックッ……』 『イカカカカカカカ!』 するとマグマ星人たちは意味ありげにこちらを嘲笑する。ゼロたちが怪訝に思っていると、 マグマ星人が言いつけた。 『そいつは、後ろのそいつに直接聞いてみることだなぁ!』 『何だと……!?』 背後から突如殺気を感じて、才人は慌てて振り返った。だが、その時にはもう遅かった。 「がはぁッ!?」 「サイトぉッ!?」 才人は振り向いた瞬間に、胸に青白い怪光線を食らい、床に大の字に倒れ込んだ。 「ふふふふふ……」 才人に怪光線を撃ち込んだのは、春奈だ。ルイズは絶句した。 「は、ハルナ! 一体どうしちゃったの!?」 「私は、高凪春奈ではない。M9球状星雲からやってきた、サーペント星人だ」 春奈がポケットから取り出した銀色のカプセルが、手の平の上で溶ける。その溶液が春奈の 全身を包み込んで、銀色の甲冑を身に纏ったような宇宙人の姿に変貌させた。 『ただし、身体は高凪春奈のものだがね。私は憑依能力を持つ種族なのだよ』 「ひ、憑依!?」 『そういうことだったのか……!』 ルイズが愕然とし、ゼロは宇宙人連合の作戦をようやく理解した。 マグマ星人たちは、春奈を狙っていたのではない。その振りをして、サーペント星人を 取り憑かせた彼女を、この瞬間のために才人に近づけるのが目的だったのだ。肉体は間違いなく 地球人のものなので、ゼロの目を以てしても正体を見抜くことは出来なかった。しかしゼロは悔やむ。 『くっそ、どうして気づかなかったんだ……! ヒントはあったじゃねぇか……! ウルトラマンゼロ、 一生の不覚だぜ……!』 サーペント星人は肉体の90%以上が水分で出来た生命体。そのため乾燥に非常に弱く、 憑依された者は頻繁に水を飲むようになる。思い返せば、春奈は病から回復してからも、 事ある毎に水分を補給していた。それが、サーペント星人が身体の内に潜んでいる証だったのに……。 『ヒャーハッハッハッハッ! 気づくのが遅すぎるぜぇウルトラマンゼロッ!』 不意打ちを食らって立ち上がれなくなった才人とゼロの姿に、マグマ星人たちは堰を切ったように 馬鹿笑いを上げた。マグマ星人は計画の全容を暴露する。 『その娘は、ウルトラマンゼロ、テメェを確実に抹殺するための駒だったのさ。知らない世界に 放り出された、悪い侵略者につけ狙われる哀れな少女を、お人好しのウルトラマン様は放っとかないだろう? より同情を誘うために、わざわざその身体の知り合いを選んだんだぜ。そして油断し切ったところを、 後ろからバッサリ! 全て上手く行った! 連戦の上に深刻なダメージを受けて、もうまともに動くことも 出来ねぇだろう! いいザマだぜぇ!』 「そ、それなら、ハルナへの刺客は何だったの!?」 ルイズが疑問を口に出すと、マグマ星人はヘラヘラ笑いながら答えた。 『追っ手がなけりゃ怪しまれるだろうからなぁ。それも演技の内だったんだよ。もっとも、 追っ手自体にゃこのことを教えてなかったがね。真剣に娘を狙ってもらわなきゃ、偽装が バレかねないからな』 「た、たったそれだけのために、仲間を平気で犠牲にしたってことか……! ゆ、許せねぇ……!」 あまりの卑劣振りに怒りに燃える才人だが、ダメージが大き過ぎて、立ち上がることすら出来なかった。 そしてその腕を、サーペント星人が踏みつける。 「ぐぁッ!」 『無駄なあがきはよせ。貴様はもう完全に終わりだ。助かる可能性は全て潰した』 ルイズは才人を踏みにじるサーペント星人に杖を向ける。 「卑怯者! サイトから離れなさいッ!」 だが杖先が震える。サーペント星人の肉体は春奈のものなのだ。傷つけることなど出来ない。 そして躊躇っている内に、サーペント星人に殴られて倒れ込んだ。 「きゃああッ!」 「ルイズッ!」 『サーペント星人! 物のついでだ、そのガキもあの世に送ってやりな!』 と命令するマグマ星人に、ウェザリーが初めて口を開いた。 「待って。あなたたちの目的は、サイトを仕留めることまででしょう? 何も彼女を道連れに する必要はないじゃない」 そう言って、マグマ星人たちを止めようとする。 「それより、私との約束を果たしてちょうだい。私と私の家を迫害した、トリステインへの復讐を……」 『うるさいじゃなイカ! 女ぁッ!』 だがその瞬間に、イカルス星人が手の平から放ったアロー光線によって壁に叩きつけられた。 「あぁぁッ!?」 「なッ!? 何を……!」 宇宙人たちの暴挙に目を剥く才人とルイズ。マグマ星人は倒れたウェザリーに、冷酷に告げる。 『ウェザリー、お前はスパイとしてなかなか役に立った。だが下等種族の出番はもう終わりだ。 なぁに、心配するなよ。復讐の代行はちゃんと果たすぜ。元より、この星の原住民は皆殺しに するつもりなんだからな! お前も含めてッ!』 「ぐッ……それが本性だったのね……!」 歯ぎしりするウェザリー。しかし彼女ももう立ち上がれなくなってしまった。 「グワアアアアアアア!」 「グアアアアアアアア!」 更に外からは、ウインダムとミクラスの悲鳴が上がった。デスフェイサーを抑えていた二体だが、 とうとう敗れてしまった。二体が仰向けに倒れ、障害のなくなったデスフェイサーは学院の校舎に接近する。 「くっそぉ……! もう、本当にここまでなのか……!?」 自分もルイズも倒れ、春奈の身体は人質にされ、外も中も敵しかいない。一切の希望が見えない 最悪の状況に、才人は悔しがって大きな歯ぎしりを立てた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9327.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百話「怪獣100匹!増殖計画」 脳波怪獣ギャンゴ 地獄超獣マザリュース 夢幻怪獣バクゴン 百体怪獣ベリュドラ 登場 内容が連続している夢を毎日見るようになった才人。その上、ルイズやシエスタなどの学院の人間が、 同じ夢を見ているようだということを知る。その原因は何なのか、と調査を始めたのだが……その矢先に リシュが少女から、成熟した亜人の姿へと変貌した! 才人はリシュの術中に陥り、ルイズたちの目の前で どこかへと消されてしまった! しかもそれと時を同じくして、トリステイン中で異常事態が同時発生し始めたのだった……! トリステインのとある町の一つ。ここに、突如として一体の怪獣が出現した。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 首と一体化した頭部の左右から回転するアンテナが生え、腕はマジックハンドのよう。 腹部にはトーテムポールを思わせる模様と、およそ自然に生まれた生物とは思えない 奇妙な外見をした怪獣、その名はギャンゴ。それが何の前触れもなく町のど真ん中を うろつき始めたので、町中がたちまちの内に大パニック。住民が大慌てでギャンゴから 離れるように逃げていく。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 我が物顔で町を闊歩するギャンゴ。と、その時、民家のガラス窓が光ってミラーナイトが この場に登場した。 『せぇいッ!』 ミラーナイトは早速ギャンゴに飛びかかっていき、チョップを繰り出す。 だがチョップはギャンゴの身体をすり抜けてしまった! 『何ッ……!?』 「ギャアオオオオオオウ!」 動揺するミラーナイト。ギャンゴの方はそんなミラーナイトを意に介さず、腕を振り上げて 近くの民家の屋根に振り下ろした。 U字型の手が当たり、屋根が抜けて民家が破壊された。 『! この状況……昨晩と同じ!?』 こちらから全く触れられない怪獣が、物を破壊する……昨日出現したレッドキングと同じで あることに、ミラーナイトはすぐに気がついた。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 『くッ……!』 それでもミラーナイトはどうにかギャンゴを止めようとしたが、何をしても一切が無駄で あることを思い知らされ、やむなく退却する他なかった。 ギャンゴは今のところ、積極的に町を破壊しようとはせずに徘徊しているだけ。それだけが救いであった。 「オギャ――――――!」 別の町では、けばけばしい色彩の巨大生物が赤ん坊そっくりの叫び声を発しながら、町の人たちを 脅していた。超獣マザリュースである。 『ビームエメラルド! ジャンナックル!』 それに果敢に攻撃を仕掛けているのはジャンボット。しかし、ミラーナイト同様、全部の攻撃が マザリュースをすり抜けてしまい、効果を上げられない。 『駄目だ……! 触れることすら出来ない……!』 どうすることも出来ずに立ち往生するジャンボット。彼は内蔵のレーダーでマザリュースを確認する。 『レーダーには確かに実体の反応がある。しかしこれでは虚像同然ではないか。どんな仕組みに なっているんだ……!?』 その謎は、ジャンボットの電子頭脳を以てしても解くことは叶わなかった。 「グアアァァァ――――!」 また別の町では、夢から脱け出てきたかのようにデタラメな怪獣がうなりを発していた。 怪獣バクゴンという。 それに対峙するグレンファイヤーも、先の二人と同じ状況に陥っていた。 『だぁぁぁッ! 全っ然掴めねぇーッ!』 グレンファイヤーはバクゴンに何度も掴みかかるのだが、手は空振りするばかり。徒労ばかりが 重なり、肩で息をする。 『このグレンファイヤー様が、怪獣を前にしてすごすご引き下がるしかねぇなんて屈辱だぜ……! けど、他にどうしようもねぇ……』 悔しさを噛み締めながら、グレンファイヤーはバクゴンを放置して退却していった。 そしてトリステインの中心、トリスタニアでは、もっと大きくもっと恐ろしい怪獣が出没していた。 「ウオオオオオオォォォォ……!」 城下町を、比喩でも何でもなくそのまますっぽりと覆い尽くす悪魔のシルエットを都中の 人々が見上げ、恐れおののく。 「な、何だあれは……!? あれも怪獣……いや、生き物なのか……!?」 「で、でかすぎるだろ……!」 アルビオンに出兵した者は巨大超獣ゼロキラーザウルスを目にしているが、そびえ立つ怪獣は その何十倍はあるという、異常にもほどがあるサイズ! その身長、何と約4000メイル! 桁が違う! あまりに大き過ぎて、トリスタニアからでは全容が見えないくらいだ! 「よ、よく見たら何匹もの怪獣が積み重なって出来上がってるぞ! 気味悪い……!」 そしてその怪獣は、大量の怪獣が折り重なって悪魔に似た輪郭を構成していた。最早滅茶苦茶。 心臓の弱い者は、その事実だけで卒倒するありさまであった。 「一体何匹の怪獣がいるんだ……? 百匹か……!?」 誰かがそんなことを言った。その通り、あの異形の大怪獣は百体怪獣の異名を冠する、 その名もベリュドラである。 現在はその場に直立しているだけだが、もしあれが暴れ出したとしたら……トリスタニアは 丸ごとペシャンコにされてしまうだろう。それを考えると、人々は全く気が気でない。ベリュドラは そこにいるだけで人々を脅かしている。 王宮からは、アンリエッタもベリュドラを見上げて戦慄していた。 「……一体この国に、何が起きているの……?」 トリステインの各地に出没した怪獣たちにまるで手出し出来ずに撤退したミラー、グレンは、 魔法学院のルイズの部屋に集合していた。 「あーもー! 何がどうなってんだ! 殴れなきゃ戦いにすらなんねぇぜ!」 頭をかきむしりながら喚いたグレンに、ミラーがうなずく。 「今はまだどの怪獣も比較的大人しいですが……仮にあれらが暴れ始めたら、未曽有の大惨事に なるのは必至です。その前に、どうにか対処しなければ……」 「けど対処するったって、一体全体どうすりゃいいんだ? そもそもあいつら何なんだよ。 本物の怪獣なのか? それとも俺たち全員が悪い夢でも見てんのか?」 『……あの怪獣たちの出現は、サイトが誘拐された直後のことだった。この二つが関係していると 考えるのが自然だろう』 シエスタの腕輪から、ジャンボットが意見する。 『ここから導き出されることは、この事態はリシュが引き起こしているのだろう』 「けどよぉ、どんな力がありゃあここまでぶっ飛んだことが出来るんだ? いやそれ以前に、 リシュは何者なんだよ。ちっこい女の子かと思えば、いきなり大きくなりやがったんだって? おまけに宇宙人が協力してると来た。ゼロまでテレパシーが途絶えてやがるし……」 「その点が解明できれば、謎は一辺に氷解するのでしょうが……」 三人の相談の傍らで、シエスタ、そしてルイズは重苦しい表情でうつむいていた。 「サイト……」 ルイズはベッドに腰掛けながら、枕を抱きしめて才人の身を案じてつぶやく。 その時、部屋の扉が忙しなくノックされたかと思うと、勢いよく開け放たれた。 「失礼するぞ! ルイズ、サイトが消えたと聞いたが!」 駆け込んできたのはクリスであった。彼女はミラーとグレンの顔を目にして一瞬驚く。 「あなた方は……?」 「私たちはサイトとここにいるルイズたちの友人です」 簡単に説明したミラーが、クリスに促す。 「クリスさん、あなたのことは伺ってます。突然ここに来られたということは、もしやあなたは サイトが消えたことに関して何かご存じなのでしょうか?」 「ああ、そうだ。サイトと話をした後、色々と調べ事をして、あることの確信を得ていたのだが…… 一歩遅かったようだな。まさか、こんなに早く動くとは……」 クリスの言を聞き、ルイズがバッと顔を上げる。 「クリス、あなたはリシュについて……サイトを連れ去っていったあの女のことを、何か知ってるの? だったら教えてちょうだい! お願いッ!」 必死な顔で懇願するルイズ。それを受けて、クリスは一時瞑目した。 「……皆を巻き込んではと思っていたが、こうなってしまったからには黙っている意味はないか。 分かった、わたしの知っている全てを話そう。ただし、月並みな言い方だが、これは『ここだけの話』と いうことにしてほしい」 その頼みに皆がうなずくと、クリスは己の抱えている事情をこの場の者たちに打ち明け始めた。 「話は恐らく、皆が思っている以上に大きい。順序立てて説明しよう。まずはわたしがこの学院に 来た理由から話す」 「トリステインの魔法技術を勉強されるためではなかったのですか?」 意外そうにシエスタが聞き返す。 「それは表向きの理由だ。本当は……サキュバスを封印するために来た」 「……さ、サキュバス? それ一体、何なの? ま、まさか、怪獣?」 唖然とするルイズ。座学の成績がトップクラスの彼女すら、そんな名前は初耳であった。 「いや、怪獣とは違う。先住の種族、いわゆる亜人の一種なのだが、出生はよく分かっていない。 彼らが使う魔法は、四大系統には属さないものだ」 「属さないって……つまり、先住魔法?」 「いや、あれを魔法と呼んでいいものかも迷う。エルフのそれとも大きく逸脱したものなのだ」 そのサキュバスの扱う魔法とやらを語るクリス。 「サキュバスは、他者に自在に夢を見せる力を持っている。その夢を通して、他者から生気を 奪い生きる力を得ている。つまり人間を食い物にする危険な存在なのだ」 「夢……!」 聡明なミラーは、この時点で何かに察しがついたようだった。 「彼らの見せる夢は相手の望みに満たされた世界であり、決して不快など与えない。そのまま夢の中に 留まっていたいと思わせるほどに完成された、偽りの楽園だ。だが、夢を見せられている方は心地よい 眠りの中で生気を抜かれ続けていく」 「じゃあ、サイトにき、キスをした女が、そのサキュバスってことなの?」 「今の状況から考えると、そうとしか思えん」 「ですが、サキュバスという名前の種族は噂にも聞いたことがありません。彼らは普段、 どうしているのですか?」 ミラーの問いかけには、クリスは次の通り答える。 「この恐ろしい存在に対して、人間は何もしなかった訳ではない。我が一族が中心となって 封印の術を編み出し、戦いの果てに四百年前に封印し、深い眠りに就かせることに成功した。 その時間の中でサキュバスの名は世間から忘れ去られたのだ」 「なるほど……」 「しかし、その封印は絶対のものではない。年月によって風化し、破られてしまうこともある。 故に、我が一族は定期的に封印を監視し続けてきた。そして、このトリステイン王国に封じられた 一体の術が薄れていたことを確認した我が一族は、対サキュバスの戦士でもあるわたしに調査及び 再封印の指令を下したのだ」 「そんな事情があったのですか……。そして、そのサキュバスの一体が、サイトさんと ミス・ヴァリエールが地下室で発見したリシュさん……」 つぶやくシエスタ。 「でも、どうして少女の姿をしてたのでしょう……?」 「恐らく、力を温存するのと同時に相手を油断させるためだろう」 実際、ゼロたちもリシュが未知の種族であることが分かっていながら、子供だからと危険視 していなかった。その効果は覿面だった訳だ。 「この学院の皆が見た『夢』は間違いなく奴の仕業だ。正体を晒したということは、それだけの力を 蓄え終わったということだろう」 「そ、そんな重大な話を、何で今までずっと秘密にしてたのよ!」 苛立ち紛れに問い詰めるルイズ。クリスがもっと早くにこのことを教えてくれていれば、 サイトがさらわれることもなかったのに。そんな気持ちが織り交ざっていた。 「すまない。だが、夢とは精神の無防備な状態。それを支配するサキュバスには、たとえどんな力が ある者でも、夢の中では刃向かうことが出来ない。更にはたった一体だけでも、その力は広範囲に及ぶ。 記録では、百の人間が一辺に犠牲になったこともあったという。それが明るみに出たら、良からぬ者が 生体兵器として利用しようと考える恐れがある。ましてや、戦後間もないトリステインに厄介事を 増やしてはいけないと心配したのだ」 そのクリスの思いを聞いては、ルイズもさすがに文句をつけられなかった。 「だが、今回は秘密にしていたことが仇になってしまった。誰がどこに封印されているかの 記録がないので手をこまねいていたが、今をして思えば、もっと早くに周りの協力を求めて いればよかった……」 「そ、それでサイトはどうなっちゃうの? まさか、死んじゃうなんてこと……!」 青ざめて尋ねかけるルイズ。 「……サキュバスは、生気を吸い取る対象を夢の世界に連れ込み、この世界から消してしまう こともある。運よく帰還できた人間もいたが、その時には百年の時間が経過していたということだ」 「ひ、百年……!?」 ますます顔が青くなるルイズとシエスタ。そんな時間、待っていたら彼女たちの寿命が尽きてしまう。 ここでミラーが口を開く。 「これで今までの謎に説明がつきました。最近の魔法学院周辺での怪獣の異常な頻出…… その原因は、サキュバスことリシュに違いありません!」 「えッ!? ミラー、それってどういうことだよ?」 グレンが振り向いて問い返すと、ミラーは自分の推理を語った。 「私はゼ……サイトから、夢のことで相談を受けてます。それによると、おかしな夢、つまり リシュに見せられていた夢の開始と怪獣の頻出の始まりの時期はほぼ一致します。要するに、 リシュの力は怪獣にまで及んでいたということでしょう。最初の内は、眠っている怪獣を夢遊病の ように動かすに留まっていましたが……夢とは本来、脳が記憶を整理する現象。それを操作する ということは、相手の精神を掌握するのと同義。力を蓄えている内に、覚醒した状態でも自分に 都合のいいように怪獣を操れるほどになったのでしょう」 しかも、とつけ加えるミラー。 「ここからは私の憶測ですが……怪獣の生命力は人間とは比較にならないほど莫大。その生気を 奪うことで、リシュは本来の能力を超えた力まで身につけた。人を現実世界から夢の世界に連れ込む のとは逆に、夢の存在を現実にする力を……。つまり、今トリステインを脅かしている実体とも 幻ともつかない怪獣たちは、サイトの記憶からリシュが作り出したものなのです!」 「な、何だってー!?」 グレンを初め、皆が驚愕した。 「それならば宇宙人が協力してることにも説明がいきます。この能力を駆使すれば、正真正銘百体…… いえ、もっと多くの、無数の怪獣を好きなだけ作り出せるのですから。放っておいたら、怪獣をどんどん 増殖されるかもしれません!」 「そ、それってどう考えてもやべーじゃねぇか! 早く止めねぇと、手がつけられなくなっちまうぜ!」 「ええ……。クリスさん、どうにかサイトを取り返す方法はないのでしょうか。最悪、サイトを 奪い返せばその事態は阻止できるはずです」 聞かれたクリスが、重々しく告げる。 「我が一族は、夢の世界に侵入し、捕らえられた人間を連れて帰る方法も有している。それを使えば……」 「よぉーしッ! だったら早速頼むぜ! 俺が行って取り返してくる! 善は急げだ!」 グレンがパンッと拳で手の平を叩いて意気込んだが、ミラーに待ったを掛けられる。 「落ち着いて下さい。向かう先は夢の世界……サキュバスの領域ですよ。相手に圧倒的有利です」 「その通りだ。更に、サキュバスを倒すか術を解かなければ、夢の世界から解放されることはない。 戻ってこられる保証はない。助けに行ってそのまま……ということも十分あり得る」 「危険が何だ! 仲間のためなら、そんなもの恐れはしねぇ!」 「だから落ち着いてと……。すみません、クリスさん。少し相談をさせて下さい」 しばらくの間、クリスには席を外してもらって、仲間内で話し合う。ミラーがグレンを諭した。 「いいですか。気持ちは分かりますが、私とあなた、出来るかどうかは置いてジャンボットも 救出役になるのは絶対に駄目です」 「なッ、何でだよ!」 「リシュが宇宙人と組んでいるということは、当然私たちへの準備もあるということになります。 実際、ゼロが手も足も出せずにサイトごと捕らえられてしまいました。そして現実世界に怪獣の 危機が及んでいる現状、最悪の事態になった時のことを考えれば、これ以上貴重な戦力を失うような ことになってはなりません。更には、私たちが行けばリシュを本気にさせてしまうかもしれない。 サイトとゼロは人質でもあるんですよ」 『ミラーナイトの言う通りだ。非情かもしれないが、ここはこらえるべきだ』 そうと言われては、グレンも反論できない。ぐッ、と言葉を詰まらせるのみ。 「だったら、どうすりゃあ……」 「……わたしが行くわ!」 と、ルイズが名乗り出た。 「ルイズ!」 「わたしは“虚無”の使い手よ。サキュバスとも対等に渡り合える可能性がある。それに…… サイトはわたしの使い魔なのよ。落とし前なら、わたしがつける」 「いいのですか? どんな危険があるかも分かりません。確実に、厳しい戦いになりますよ」 問いかけるミラー。ルイズは固い決意を顔に表して首肯した。 「分かりました……。クリスさん、話は纏まりました」 ミラーが部屋の外で待っていてもらったクリスを呼び、ルイズが救出に向かうことを伝えた。 「ルイズ、いいのだな? もう一度言うが、戻ってこられる保証はない。我が一族の技は、 あくまで彼らを封じることに特化している。もしお前がサイトに続いて夢に取り込まれて しまった場合は……すまないが、お前たちのことはあきらめて封印を行わせてもらうことに なるだろう」 クリスの警告を受けても、ルイズの意志は変わらなかった。 「覚悟の上よ……!」 この世界は、恐ろしい危機に見舞われている。世界を救うためには、ゼロの力がどうしても 必要なのだ。それだけではない。ゼロは何度も自分たちを助けてくれた。そして才人も、自分を……。 だから今度は、自分が二人を助け出さねばならないのだ。 「分かった。では準備に取りかかろう」 早速魔法の用意を執り行うクリス。その間にシエスタ、ミラー、グレンがルイズに言葉を掛けた。 「こんな時、何の力もないのがもどかしいですが……ミス・ヴァリエールに全てを託します。 どうか、サイトさんとゼロをお救い下さい」 「夢の世界とは精神の世界。だから何があろうと、精神で負けてはいけません。いいですね」 「つまりドーンッ! と行けってこった! いざという時は勢いだぜ勢い! このこと、忘れんなよ!」 デルフリンガーは、何やら考え込んでいて言葉を発しなかった。 最後に、クリスが呼びかける。 「向こうがどうなっているか分からない。夢の世界は不安定で常に変化していると思ってくれ。 だから、慎重に。軽々な行動は慎み、機会を待つんだ」 「分かったわ。それじゃ、お願い!」 「では……行くぞッ!」 クリスが呪文を唱えると、足元に魔法陣が浮かび上がる。 そしてクリスの魔法を受けたルイズの視界が、徐々に白く染まっていった。夢の世界へと 移動していっているのだ。 かくして、ルイズは夢の世界へと旅立っていった。果たして、才人とゼロを救出することは出来るのか。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1115.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「『魔鏡』?」 「魔法を反射する、生きた鏡だ。 死んでもその効果は残ると聞いたことがある。どうもそれらしいな」 「じ、じゃあ……どうするのよ?」 「君は術士?」 ルイズの疑問を遮る形で、緑色の髪の少女が問いかけてくる。 ルイズが不機嫌な表情をするが、その少女は意に介さない。 「そうだが」 「なら、『フラッシュファイア』ぐらいは使えるでしょ?」 「使えるが、無理だぞ」 「何故?」 「見てみろ」 と、ブルーはゴーレムを示す。左手にギトーを捕まえていた。 そのまま、巨体を動かして森の奥へ去っていく。 ルイズが叫び声を上げる。 「ギ、ギトー先生ぇー!?」 「『フラッシュファイア』を使うなら、人質ごと焼かなければならなくなる」 「そう……それは困ったね……せめて剣があれば何とかなるんだけど」 「ならこれを使え」 ブルーはそう言うと、右手に持っていたデルフを少女に手渡す。 「ちょ、相棒!?そんなにあっさり渡されると俺寂しいな」 「……あんまり使いたくないけど……まぁ丈夫そうだし、無いよりは良いか」 と、デルフを少女が受け取ると、デルフは黙り込んだ。 武器屋の時のようである。 「おでれーた。嬢ちゃん人間か?」 「半分違うよ」 訳のわからない言葉に、周囲の人間が困惑する。 「まーいい。剣の腕は確かみたいだしな!」 「……けど、君はどうするの?術が使えないんじゃ……」 「こうすればいい」 ブルーは右手を前に突き出し、唱える。 「『光の剣』」 すると、眩いばかりの光を放つ剣が、彼の右手に出現する。 デルフがその剣を見て言う。 「……おでれーた。俺の必要なさそーじゃねーか」 「お前は飾りだ」 「相棒ってば酷い」 「えーと……私はどうすればいいのかしら」 「キュルケを介抱しながら馬車で待っててくれ」 「……嫌だけど、解ったわ」 そう言うと、ルイズは倒れているキュルケに向け走り出す。 少女が、ブルーに対して言う。 「私はアセルス。君は?」 「ブルーだ」 「そう、じゃあブルー、行くよ!」 二人は駆け出……さなかった。 ブルーが一言言ったからである。 「ちょっと待て」 アセルスは駆け出そうとしたので、バランスを崩して転ぶ。 立ち上がりながら、ブルーの方を向き恨みのややこもった目をしながら言う。 「何で止まるの?」 「あのゴーレムは再生する。術者を倒した方が手っ取り早い」 「だけど、どうやって探すのさ?」 「タバサ」 ブルーは、さっきからずっと黙っていた少女に話しかけた。 「俺達があのゴーレムを食い止めてる間に、 術者を見つけ出してくれ」 「わかった」 そういうと、いつの間にか控えていた雷竜にまたがり、飛び去る。 それを見届けてから、アセルスは言う。 「可愛い子だな」(それじゃあ行こうか) 「何を言ってるんだ?」 「……い、いや、何でもないよ」 二人は駆けだした。 『土くれのフーケ』は焦っていた。計画が丸つぶれである。 『火返しの鏡』はすぐに効果が解ったのだが、 『盗賊の指輪』は使い方も解らない。 そのための計画を立てたのだが、訳のわからないガキに邪魔された。 それだけならまだ何とかなったのだが、何故か撒いたはずの魔法学院からの追っ手まで来た。 最悪である。このまま計画を実行しようものなら、確実にばれること請け合いである。 「畜生……だが、一応あんた達に教えて貰うとするよ」 ゴーレムの去った方向に暫く駆けていくと、 見るからに怪しい小屋があった。思わず言ってしまう。 「ブルー……どう思う?」 「アセルス、どう思う」 「…………」 「…………」 二人とも微妙な雰囲気のまま黙り込む。 「まぁ、罠でも大丈夫でしょ」 アセルスは小屋に向け歩き出す。 ブルーもその後に付いていった。 小屋のドアを開けると、擦れるような音がした。 中は埃まみれで、テーブルが一つあるだけの簡素な小屋だった。 テーブルの上に小箱が一つ置いてある。 アセルスは周りを見回して何かを探していたようだが、 どうやら見つからなかったのか、少し落胆した表情を見せる。 ブルーは、小箱に近づき、そのふたを開けてみる。 中には、一つの指輪が入っていた。 「これが『盗賊の指輪』か?」 「それが貴方達の目的?」 「あとは『魔鏡』だな」 「そう……」 と、突如轟音がして上から光が差し込む。 何事かと思い上を見上げると、先ほどのゴーレムが此方を見ていた。 アセルスが小さく言う。 「好都合ね」 「……そうか?」 ブルーが突っ込む。 ルイズはおとなしく馬車で待っていることをよしとしなかった。 元々、ろくに魔法が成功しない自分である。 『魔鏡』と言うものは知らないが、自分には関係ない。 ただ、杖に誓いをかけた以上、後ろで引き下がっているだけで済ませるつもりはない。 彼女は武器屋で手に入れた細身の剣と、 自らの杖を持つと、ブルー達が駆け去った方へと走りだした。 タバサは自らの使い魔と共に、その方向へと向かった。 ゴーレムは使い魔と違い、感覚を共有することなどは出来ない。 ならば、術者はゴーレムの近くにいるのが当然である。 故に、今轟音がした方向へと飛んでいるのであった。 ブルーは剣を持つと、左手のルーンを見た。 光っている。決闘の時のように、身体が軽くなる。 恐らく、『魔鏡』はゴーレムのどこかに埋め込まれている。 ギトーとか言う教師は、背中に埋め込まれていた。 『土くれのフーケ』が『魔鏡』の詳細の効果を知ってるかどうかは知らないが、 知っているのなら人質の近くに埋めるだろう。 そう考えながら、ブルーは飛んだ。 アセルスは戦っている間のゴーレムの姿を思い出す。 何処にも『幻魔』は刺さっていなかった。 なら、どこかに埋まっているか、もしくは術者が持っているか。 取り敢えずは、目の前のゴーレムを倒すことを考えた。 フーケは仰天することになる。 小屋の中に誘い込んださっきのガキが おかしいことはさっきまでの戦闘で解っていたが、 今度はそれ以上であった。 剣でゴーレムが次々とバラバラにされていく。 幸い再生は間に合っているものの、それがなければとっくに小山になっているだろう。 フーケは秘策を出すことにした。 「これは、後がきついんだけどね……仕方がないねぇッ!」 そう言うと、長い呪文の詠唱を始めた。 ルイズはゴーレムを目印に、走り続けていた。 右手の剣に力が入る。 そのゴーレムの近くまで寄ると、驚くものを見ることになる。 土のゴーレムが、徐々にその色と姿を変える。 土の茶色が、鋼の銀色に。 つまり、鋼のゴーレムへと姿を変えたのであった。 突如、刃が立たなくなる。 『光の剣』といえど、分厚い鋼を一太刀の元に両断することは出来ない。 途中で剣がはまり、抜けなくなる。 「ち……」 仕方なく、ブルーはさっきからとんでもない動きをしている少女に向け叫ぶ。 「アセルス!俺じゃ刃が立たない!ここは任せた!」 「ちょっ……私だって無理があるよ!」 その言葉は聞かずに、剣から手を放し、走り去る。 「おや……?」 フーケは、その走り去る男の姿を捉えていた。 その男の方が確か『指輪』を持っていたはずである。 「持ち逃げされちゃあ、たまらないね……」 恐ろしい敵から、小うるさい蠅に変わった少女を鋼の腕でなぎ払うと、 フーケは男を追わせた。 アセルスは再び殴り飛ばされていた。 鋼の拳はなかなかにいたかった。 受け身に少々失敗し、服が汚れ、擦り傷が所々に出来る。 その様子を、呆然と桃髪の少女が見つめていた。 そして、その少女が持っていた細身の剣に目を付ける。 ゴーレムに追われているブルーの姿を見つけると、タバサは急降下する。 そして、ブルーを使い魔にくわえさせると、そのまま飛び上がった。 「状況」 「指輪は見つけられたが、あの通りだ」 と、ブルーが指輪を示してみせる。 タバサはそれで解ったらしい。 が、彼女の使い魔が急に妙な様子になる。 「クーン?」 「タバサ、それだよ、それ!」 「じゃべっちゃ……」 「それも、『指輪』だよ!」 「……え?」 フーケを倒すための全てのピースが揃った。 ブルーが叫ぶ。 「アセルス!今から何が起こっても『何もしないでくれ』!」 その声を聞き届けたアセルスは叫び返す。 「私の方には今あの鋼のゴーレムを倒す手段があるわ!」 「解った、なら合図したらそれを使ってゴーレムを倒してくれ! 『魔鏡』もこの際構わん!」 「解った!」 「ア、アセルスって言ったかしら?何が起きるの?」 「……さぁ?」 フーケはさっきのやりとりに気を取られつつも、そのゴーレムと共に竜を追っていた。 倒せる、と言っていたが、鋼の身体に、 『火返しの鏡』を持った彼女のゴーレムを破壊する方法などあるものか。 大体、そんなことをすればギトーも無事では済むまい。 恐らく、こっちの注意を逸らさせるための策だ。 フーケはそう判断した。竜が地面に降り立ったのを確認すると、足を早めた。 クーンは、その指輪を手に持つと、呟く。 「指輪よ……」 そして、上へ放り投げた。 その瞬間、光が走り、彼らと、アセルスとルイズの姿がこの世界から消えた。 フーケは、降り立ったはずの場所に、標的がいないのを確認する。 どこかに隠れてるのかと思い、自らの目で探そうとする。 突如、右手を掴まれる。後ろには、指輪を持って逃げた青年がいた。 「捕まえたぞ」 「……ッ!」 フーケは、自らのゴーレムの拳を青年へと向けようとする。 だが、その前に青年が叫ぶ。 「アセルス!恐らく『魔鏡』は人質の近くだ!」 「解った!」 空高くから、緑色の髪を逆立てた少女が、細身の剣を構えていた。 「『ファイナルストライク』ッ!」 次の瞬間、その細身の剣が輝き、放電を始める。 その剣がゴーレムに当たると、激しい音を立てて半ば程まで切り裂かれる。 その半ばほどで、『魔鏡』が刃を食い止めていた。 それも長くは保たず、魔鏡は砕け散る。 だが、それと同時に細身の剣も砕け散った。 「……はは!一時はどうなるかと思ったけど!まだ私のゴーレムは動けるよ!」 そう言い、止まっていた拳を再び振り上げ、青年に向けて再度振り下ろそうとする。 だが、それは何かよくわからない犬っぽい生物と、それが作っているらしい障壁に止められる。 「……なんだってぇ!?」 「これで詰みだ」 後ろにいる青年が、ルーンを刻む。 魔法使いでもないのに、何をしようというのか…… そう思ったが、次の瞬間思い知らされることになる。 ゴーレムの背中に埋め込んでおいたギトーが、突如『解放』された。 「……な」 もはや、驚きの声すらあまりでない。 だが、それでも障壁に阻まれていないもう一つの手を、振り下ろそうとする。 その前に、一つの声が聞こえてくる。 「『時間蝕』」 その声を聞いて、フーケの意識は停止した。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9165.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その四「開戦前夜」 電撃怪獣ボルギルス 浄化宇宙人キュリア星人 登場 「どうよミラーちゃん! この帽子、イカすだろ?」 『はぁ……』 アルビオンから最も近いトリステインの港町、ラ・ロシェールの宿の一室で、グレンが机の上の鏡に 映ったミラーナイト相手に、海賊風の帽子を被った姿を自慢していた。 「さっきそこのバザーで見つけたんだよ。これ見てると、ガル船長たちを思い出してさぁ。 船長たち、今頃元気でやってるかねぇ」 『それはいいのですが……グレン』 帽子を被って子供みたいにはしゃぐグレンに呆れ気味のミラーナイトは、こんなことを尋ねる。 『前から言おうと思ってましたが……あなた、いえ、あなたが借りているウェールズさんの身体、 随分とガッシリしましたね……。何と言うか、グレンファイヤーの肉体に少しずつ近づいているような……』 ミラーナイトの指摘した通り、グレンの肉体=ウェールズの身体は今、皇太子だった頃と比べて 大分マッシブになっていた。露出した腕には筋肉が目立ち、肌は小麦色に日焼けしている。 直に細マッチョの段階を突き抜けそうだ。 「あッ、分かるか? へへッ、大分身体作りが出来てきたってことだな」 『身体作りって……わざとやってるんですか?』 「当ったり前だぜ! 男の魅力といやぁ何と言ってもたくましさだからな! 一時的な身体といえども、 ほっそりなのはこのグレンファイヤーには似合わないぜ」 元のウェールズも決して鍛えてなかった訳ではないのだが、グレンファイヤーはお気に召さなかったようだ。 『そうでなくて……返事は得られないとはいえ、無断で身体を改造するような真似をするのはどうでしょうか?』 「なぁに、ウェールズさんだって喜んでくれるだろ。聞いた話じゃ、割と戦士の気質だっていうしさ」 『だといいのですが……ともかく、ほどほどにしてあげて下さいね。いつかは返す身体なんですから』 ふぅとため息を吐いたミラーナイト。それから、語調を一新して話題を変更した。 『それで、グレン……あなたは、本当に人間の戦争に参加するつもりなのですね?』 真剣な口調であった。グレンもそれに感応されたかのように、たたずまいを直す。 「……ああ。グレンファイヤーの姿でトリステインに肩入れするのはまずいが、今の人間の姿で、 人間として戦うんだったら問題ねぇだろ?」 『それはそうですが……』 明日、夜が明ければ遂にトリステイン・ゲルマニア連合とアルビオンの正面戦争が開戦する。 まずは明朝に連合の飛行船団がアルビオン大陸の港を押さえ、そうしたら軍の本隊がここラ・ロシェールから 飛行大陸に上陸する作戦となっている。そのため、今のこの港町には参戦を待つ兵士や傭兵が 数え切れないほど集っている。 そしてグレンも、その傭兵の一人に入っているのだった。ヤプールの陰謀が引き起こした 戦争の早期終結のために、何か力になりたいと心から思っての行動である。 「そう暗い顔するなよ。俺は人を殺すつもりなんてねぇ。もちろん俺の見てる範囲でそんなこともさせねぇ。 あくまで、相手を無力化して命を助けながら勝つために戦うんだ」 と力強く宣誓するグレン。人間の力だけしか使えない状態でそれは大変難しいということは 彼も理解しているが、それでも本気でやるつもりなのは明白だった。 「ミラーナイトは、静観を貫くんだよな?」 『ええ……』 対してミラーナイトは、人間との戦いは絶対にしないつもりであった。彼ははっきりと言う。 『私は鏡の世界の、守護の騎士。如何なる理由があろうと、攻めるための戦争に荷担することは出来ません』 ミラーナイトは、元は惑星エスメラルダの守護騎士。そしてエスメラルダは、高い科学力を 平和のために用い続けることを誓っている惑星。侵略戦争などしたことはなく、ミラーナイトも そのような争いはしないことを誇りとしている。彼が戦う時は、あくまで「何かを護る」時だけだ。 『これは私の矜持ですので、グレン、あなたに強要するつもりはありませんが』 「分かってるって。俺もお前を非難するつもりなんてこれっぽっちもねぇよ」 守護騎士と元海賊の用心棒という身分の違いから来る、意見の相違。しかし二人とも、 お互いの意見を理解して尊重していた。両者の間に、どちらが正しいとか悪いとかはないのだ。 「けど……俺だって、戦争なんてない方がいいとは思ってるさ。喧嘩は好きだが、戦争はなぁ……」 『そうですね……。未然に防げないのが、口惜しい限りです……』 ただ両者とも、その思いだけは共通していた。戦争は人が死ぬ。これは避けられないことだ。 そして二人とも、罪のない人々が戦争に駆り出されて命を散らしていく様を見るのは耐え難い思いでいる。 ベリアルがアナザースペースに攻め込み、大勢の命が犠牲になったかつての悲劇を思い出してしまう。 これを阻止するには、裏で糸を引くヤプールを倒す以外にない。だが、ヤプールはその性質上、 こちらから攻撃を仕掛けることが出来ない。何も手を打つことが出来ないまま戦争が始まってしまい、 ミラーナイトもグレンファイヤーも悔しい気持ちでいっぱいだった。 「……ゼロとサイトは、このこと、どう思ってるだろうな……」 『……』 ふと二人は、今ははるか空の上の才人たちに思いを馳せた。港を押さえる先制攻撃に、 才人たちは早くも参加するのだ。その時に、グレンたちよりも早くに人の死を 目の当たりにすることだろう。あんなことがあったばかりなのに……。 宿の一室には、陰鬱とした空気が沈滞し続けた。 「……学院も、大分寂しくなってしまいましたね……」 魔法学院ではシエスタが、ジャンボットの腕輪に話し掛けていた。 学院はほとんどの教師や男子生徒が徴兵されたことで、すっかりがらんどうのありさまとなっていた。 そして残った女子生徒や平民の使用人の間にも、ずっと重い空気が流れている。 それは、昨晩にコルベールが超獣の襲撃の犠牲となったからだ。普段は昼行燈な奇人変人で 知られていたコルベール。それが本当は勇敢な戦士で、その上この学院で命を落とすことになるとは、 一体誰が予想していただろうか。 人の死を目の当たりにしたことで、男子の徴兵からふさぎ込みがちだった女子たちは余計に意気消沈していた。 『私たちがもっとしっかりとしていれば、教諭が犠牲になることはなかったのだ……。私ともあろうものが、 何たる不覚……! 故郷の姫さまに顔向けできぬ……!』 「ジ、ジャンボットさん、そんなに自分を責めないで下さい! 皆さんは、必死に戦って わたしたちを守ってくれたじゃないですか! あれは、どうしようもないことだったんですよ……」 責任感の強いジャンボットが己を責めるので、シエスタは懸命に慰めた。そしてふと、あることを気に掛けた。 「サイトさんに、ミス・ヴァリエール……ご無事で帰ってくるでしょうか……。心配です……」 戦争に出掛けた二人。その安否を案ずるシエスタ。何でも二人は前線に立つ役割ではないので、 そうそう危険があるとは思わないが……。 『あの二人であれば、無事であるだろう……と言いたいところだが、実際どうなるかは、 私にも分からない。もしかしたらという可能性は、常に考えておくべきだろう』 「そんな……!」 『厳しいことを言うが、事実だ。戦争は、どれほど腕の立つ者であろうと死の危険をぬぐい去ることは出来ない。 ゼロも、戦争に身を投じる者を助けることは許されないからな……』 もし才人かルイズが戦場で、人の手で命を落とすような事態になったとしても……その時ゼロは、 二人を助ける行動を取ってはならない。非情なようだが、それが大宇宙の決まりごとなのだ。 『戦場に立たない私たちに出来るのは、二人の無事を祈ることのみだ。ロボットの私が神頼みというのも 奇妙かもしれないが……せめて、祈りを捧げることだけはやっておこう。本当に何もしないのは寂しすぎるものだからな』 「そうですね……。始祖ブリミルよ、どうかサイトさんとミス・ヴァリエールをお見守り下さい……」 シエスタは手を組み、空の果ての神と才人たちに思いが届くように、真剣に祈った。 「グイイイイイイイイ!」 「ふふッ、いい子ね」 ラ・ヴァリエール領の屋敷の林では、カトレアがボルギルスの頭を撫でていた。と言っても、 ボルギルスが大きすぎるので実際は顎の辺りだが。 「カトレアお嬢さま、こんなところにいらっしゃいましたか」 そこに彼女を探しにやってくるヤマノ医師。彼は小言を告げる。 「いつも言いますが、遅い時間まであまり出歩かないで下さい。お嬢さまに万一のことがありましたら、 私は旦那さまにお顔向けが出来ません」 「ふふ、ごめんなさい。お食事後のこの子と戯れていたら、つい時間を忘れてしまって」 「そうやっていつも笑ってごまかされるんですから……」 にっこり微笑むカトレアに、ヤマノは肩をすくめてため息を吐く。だが彼も彼でカトレアの笑顔に弱く、 いつもなし崩し的に許してしまうのであった。 ちなみにボルギルスの食料は、電気。持病のせいで魔法を使うとひどく消耗するカトレアに代わり、 母カリーヌが雷の魔法でボルギルスに食べさせている。そのお陰でボルギルスは空腹に困ることなく、 常に大人しくしている。 もっとも、ボルギルスの食す電力は発電所でも賄うのが難しいほどに膨大。それを人の身で発電するとは…… いや、それを言ってもしょうがない。“烈風”カリン。それはトリステインの伝説なのだ。 「グイイイイイイイイ!」 ボルギルスがドスンドスンと林の奥へ去っていく。手を振って見送ったカトレアは、 ヤマノにこんなことを尋ね掛ける。 「ヤマノ先生、ルイズと彼女の使い魔くんは、今頃空の上でしょうか?」 「は? えぇ……そうですね。作戦が予定通り進んでいるのなら、そのはずです」 ヤマノは公爵づてに耳に挟んだ情報を思い返し、肯定した。 「……あの可愛いルイズが、本当に戦争に行ったのですね……。わたしも後押ししたとはいえ……」 「……」 ぼんやりと空を見上げていたカトレアは、ヤマノに向き直って頼む。 「先生。少し、先生の本当のお姿を見せてもらっていいでしょうか?」 「え!? お、お嬢さま、それは……」 「大丈夫、何の問題もありませんわ。わたしたちの屋敷に、あなたのことを知らない人は いないことはもうご存知じゃないですか」 戸惑ったヤマノだが、説き伏せられて観念し、その姿を歪ませて、別の姿を晒した。 人間でも、ハルケギニアに存在するあらゆる生物とも似つかぬ異形の姿。それがヤマノの真の姿。 彼は外宇宙からこの星に迷い込んだキュリア星人なのだ。 『見ていて気持ちのいいものではないでしょう。お嬢さま方にとって、この姿は気味の悪いもののはずだ……』 居心地の悪そうなキュリア星人に、カトレアは苦笑を向ける。 「確かに、あまり見慣れない姿ではあります。けれど、それが何でしょうか。先生がとてもいい お方であることは、よく知ってます。姿形なんて、その前ではどうでもいいことですわ」 『お嬢さま……』 微笑んでいたカトレアだが、そこで表情を歪ませる。 「そう、別の世界からいらした先生とわたしたちがこんなに分かり合えているのに…… どうしてわたしたち人間同士で、戦争をしなければならないのでしょうか……。戦争さえなければ、 あの子も危険を冒さずによかったのに……」 『アルビオンの人たちが悪いのではありません。彼らを操り、戦争を煽る者の仕業です』 アルビオンを庇うキュリア星人だが、カトレアは同意しなかった。 「わたしは、そうは思いません。たとえ誰が裏につこうと、平和を愛する当たり前な心があるのならば、 侵略戦争を拒否することは出来ると思います。それなのに……どうして身分のある方には、命を最も 大事とする方が少ないのでしょうか……」 『……お嬢さま……』 「わたし、いつもそれだけが残念でなりません……」 辛そうに目を伏せるカトレアに、キュリア星人は何の言葉も掛けることが出来なかった。 何を言ったところで、彼女の慰めにはなるまい。 「……ルイズ、どうか、必ず帰ってきて……」 優しくはあっても、力を持たないカトレアは、そう祈ることだけしかなかった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7393.html
前ページゼロの使い魔 対 ショッカー 「あんた達、誰?」 ルイズが目を覚ますと、白い覆面をした男達が彼女を覗き込んでいた。 その異様な雰囲気に思わずルイズは身構えそうになるが、しかし両手はまったく動かせない。 それどころか彼女の身体は何か円形の台らしき物に仰向けで寝かされ、固定されている状態だった。 これでは逃げようもないが、それでもせめてもの抵抗にとルイズは部屋の様子を探ってみる。 視界に入る範囲では天井と壁と何らかの機械の一部しか分からない。 だが、不気味なまでに薄暗く、彼女が今まで見たことも無い様式の部屋。そして自分を照らす怪しい灯。 覆面の男達だけでなく、自分のいるこの空間そのものが異様なものだった。 ここは一体、何処なのだろう。この連中は一体、誰なんだろう。そもそも自分は何故、こんな所にいるのだろう。 そんな疑問が頭をよぎった時。 「お目覚めかな、ルイズ・フランソワーズ」 突然かけられた声にルイズは聞き覚えがあった。 氷のように冷たく暗いその声――それは二週間ほど前に自らが召喚した使い魔の老人のもの。 声と共にそれまでルイズを括りつけていた円形の台が動き、彼女の身体ごと起こされる。 目の前には、やはり自らの使い魔の姿があった。 「し、死神博士!? ちょっと、一体これはどういうことなのよ! ここは何処!?」 「場所が知りたいか、いいだろう。ここはトリステイン魔法学院の地下に作った、我ら『ショッカー』のアジトだ」 「しょっかー? 何よそれ。だいたい、学院の下にそんなもの作れるわけないでしょ!?」 「頭の悪い娘だ。お前は我々の言うことに疑問を挟む必要など無い」 ルイズは混乱しながらも状況を把握し、整理しようと試みた。 どうやら自分は使い魔によって、本当に学院の地下なのかは分からないが、とにかく彼が独自に用意した怪しげな部屋に拉致された。 まとめればこれだけなのだが、どれもルイズの常識では決して受け入れられないようなことである。 そもそも使い魔が人間であること自体が異例なのだ。 使い魔が主人に対して忠誠を誓わないどころか反逆するなどハルケギニアの歴史上、聞いたことが無い。 そんなことを考えながら、ルイズは死神博士を召喚してからのことを思い返していた。 ルイズの通っているトリステイン魔法学院では伝統として春の使い魔召喚が行われる。 二年生に進級する際、『サモン・サーヴァント』で自らの使い魔を召喚し、主従の契約をする。 召喚された使い魔からメイジの属性を判断、固定することが目的の神聖な儀式だ。 そこで彼女はハルケギニアの幻獣や動物ではなく、人間を召喚してしまったのだ。 それでも、召喚した直後は「役に立たない年寄りを呼んでしまった」ぐらいにしか思わなかった。 外国の田舎の出身らしく、メイジや系統魔法についてさえ知らないことで驚いたぐらいだ。 とはいえ使い魔になることに抵抗することも無かったし、使い魔としての仕事も雑用ぐらいしかさせなかったが、特に問題となるような行動は無かった。 あえて挙げるなら、学者のようなものだったということで図書館の使用の許可を与えたら、自分を放って三日ほど入り浸ったことぐらいである。 特に変わった所も無く、何も期待はしていなかったが…… 「どうして……どうして、こんなことになったのよ……」 「案ずることはありませんぞ、ミス・ヴァリエール」 不安と恐怖に押し潰されそうになった彼女にかけられたのは想像だにしなかった人の声だった。 〝炎蛇〟のコルベール。 死神博士を召喚した時にも居合わせた、魔法学院の教師である。 「ミスタ・コルベール!」 「恐れることはありません。今、君に必要な知識、事実は私が全て教えましょう」 正直、ほっとした。 コルベールは変人だが、誠実な人間であることはルイズも知っている。 しかも魔法学院の教師なだけあって、メイジとしてもトライアングルクラスの実力を誇る。 これで少なくとも身の安全は保障されたようなものである、そうルイズは考えたのだ。 しかし。 「ミス・ヴァリエール、君は知らなければなりません。君が呼び出した使い魔のことを。そして、2つの世界を救う偉大なる『ショッカー』のことを」 それからコルベールは熱弁をふるった。 死神博士がこの世界とは別の世界から来た科学者で、ショッカーという組織の大幹部だということ。 そしてショッカーがそちらの世界を正しい方向に導くための選ばれた存在だということを。 さらに異世界の文明やその歴史、さらにショッカーの持つ科学技術の素晴らしさについて。 それらの説明を聞く中でルイズは感じ取っていた。 コルベールの異常に。 「ミス・ヴァリエール、これは光栄なことですぞ。死神博士の仰る世界は素晴らしい。ショッカーの世界こそまさに理想郷だ! 君はそれを創造することが出来る力と権利を手に入れた。君はまさに神と始祖に愛された人間なのです!」 ――狂っている。 おかしな研究に没頭していた先生だ、ショッカーの何かに惹かれたのは事実だろう。 でも、いくらなんでもこんなことを言う人じゃなかった。 変えてしまったのだ、先生を、彼らが。 ショッカーが。 「で、でも、どうして〝ゼロ〟の私なんかを? 私が死神博士を使い魔として召喚したから?」 コルベールへの恐怖とは別に、彼の説明を聞く中で浮かんできた疑問。 ショッカーが魔法を超越した科学を持ち、魔法など必要としていないのであれば説明はつく。 自分が召喚した関係もあるし、単に一番手近な存在として選ばれただけということでも理屈は通る。 しかし、やはりどうしても何か引っかかる。違和感が拭いきれない。 「ならば教えてやろう」 そのルイズの疑問に対して答えたのはコルベールでは無く、死神博士だった。 死神博士の指示により、大きな鏡のような物がこちらに見えるように向けられる。 そこに映し出されたのはルイズも見慣れた古代文字――使い魔に刻まれる紋様だった。 「ルーン?」 「そうだ。解除したルーンから、お前が伝説の系統の担い手であることが分かった。お前は我が改造手術の素体としてはこれ以上ない……『仮面ライダー』を倒しうるだけの逸材だ」 「な、何を言ってるの…? 伝説って…? 改造手術って何の冗談よ!?」 「冗談などではない。先日、捕らえた吸血鬼の血を用いてお前の体に改造手術を行った。お前はもはや人間ではない『改造メイジ』なのだ」 「そ、そんなの信じない! 信じられないわ!!」 「……いいだろう。コルベール、やれ」 「はい」 コルベールは頷くと杖を振るう。すると巨大な炎の蛇がうねり、ルイズの体に巻きついた。 「きゃぁあああああ! 先生、何を!?」 「これが今の君だ、ミス・ヴァリエール。私のヘビ君を受けたのなら、普通の人間なら一瞬で燃え尽きている」 そう言われ、はたと気が付く。 コルベールのあれだけの炎を受けたにも関わらず、自分はほとんど痛みを感じていない。 おそらく、身体には火傷の一つさえないのだろう。 それが何を意味するか……ルイズの顔色が蒼白に変わる。 「お前の潜在能力は既にショッカーのコンピューターにより90%以上が解析済みだ。あとは始祖の秘宝と指輪さえ手に入れれば、こちらが必要とする魔法を強制的に覚えさせることが出来る」 「そんなことして……私の魔法を使って、一体どうするつもりなのよ……」 「お前には、まず『世界扉』を開いてもらう。そして日本に行き、あの憎き一文字隼人を始末するのだ」 「……そうはいかない。そしてルイズは返してもらう」 死神博士の言葉を遮り、朗々たる声が部屋に響く。 そして現れたのは羽帽子に黒いマントを纏った一人の貴族。 「何者だ、貴様……!?」 「魔法衛士隊、グリフォン隊隊長……〝閃光〟のワルド!」 ジャン・ジャック・フランシス・ワルド。 トリステイン王国三つの魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊の隊長であり、子爵の地位を持つ貴族。 そして影では貴族連盟レコン・キスタと通じ、己の目的のために聖地を目指す野望の男である。 そんな彼にはかねてより目をつけていた少女がいた。 幼い頃より自分を慕っていたヴァリエール家の三女。ワルドは彼女の秘めた才能を見抜いていた。 その力がどのようなものなのか、どれほどのものなのかは分からないが、計り知れない可能性を感じていた。 彼女はいずれあの始祖ブリミルにも劣らぬ優秀なメイジになるだろう、そんな予感めいた確信さえあった。 だから彼は魔法学院での使い魔召喚の儀式の時からルイズを密かに見張っていた。 召喚される使い魔にはメイジの力量と属性が大きく影響するため、彼女の力を見極める絶好の機会だったからだ。 そして、それが偶然にもワルドにショッカーの存在を教えたのである。 「怪しい老人だとは思っていたが、まさかここまでのものとはな」 「小癪な小僧が。カメレオン男!」 死神博士が手を振り上げると同時に虚空から現れる異形の姿。 ショッカーの改造人間、その名は死神カメレオン。 「なるほど。貴様がショッカーの改造人間とやらか」 「クェーッエッエッエ、ショッカーに歯向かう者は皆殺しだ!」 そう処刑宣告をすると、怪人は手を広げ悠然とワルドの方へと間合いを詰めていく。 メイジ相手に自殺行為としか思えないその行動が意味するもの、それは相手の絶対の自信。 これまで経験してきた緊張や戦慄とは別種の恐怖を感じ、杖を構えつつもじりじりと下がるワルド。 敵は改造人間という未知数の相手。どういう能力を持つのか、どれだけの戦闘力を誇るのかは想像もつかない。 分かることがあるとすれば一つ、それはまともに勝負を挑んでも勝算は低いだろうということだ。 「どうしたワルド、かかってこい」 死神カメレオンの挑発を受け流しながらワルドは戦況を読み、打開策を練っていた。 この戦いに勝機があるとするならば、この怪人が彼自身の実力を知らないことの一点につきるだろう。 ならば相手がこちらを甘く見ているうちに、自らが持つ最強の呪文で一気に畳み掛けるしかない。 そう結論付けたワルドは呪文を詠唱――せず、視界の端に映っていた白覆面の男に向かって、懐から取り出した円盤状の物体を投げた。 「イー!?」 「むっ?」 ワルドが投げたのは変装用に持っていた白い仮面。武器でもないため特別な殺傷力など無い。 が、その思わぬ攻撃は白覆面の男に苦悶の声を上げさせ、死神カメレオンの注意も逸らさせた。 そう、それこそがワルドの狙いだった。 まともに放っては魔法が防がれる可能性も考えられたため、虚を突く必要があったのだ。 そして再び死神カメレオンがこちらに注意を戻した時には既に呪文の詠唱は完成されていた。 「走れ、稲妻! 『ライトニング・クラウド』!!」 放たれたワルドの電撃魔法の直撃に肉体を焦がし、悶え苦しむ死神カメレオン。 本来ならばショッカーの怪人は数万ボルトの電流にも耐えられる。生半可な電撃など通用するはずがない。 しかし過去に一度葬り去られ、破損箇所を修復されて蘇った『再生怪人』の場合は別である。 再生怪人は一部を除いて著しく戦闘力・耐久性が劣化する…サッカー選手に腹を蹴られた程度でも大きなダメージを受けるという例もあった。 そして、この死神カメレオンも過去に三度も倒されている〝再生〟死神カメレオンだった。 「流石に俺の『ライトニング・クラウド』を受けてはただでは済まないか」 魔力の大半を込めた渾身の一撃とはいえ、想像以上にダメージを与えられたことに安堵の表情を浮かべるワルド。 このまま一気にとどめを刺さんと明らかに弱り、ふらつく怪人に近付き、杖を向ける。 その瞬間、死神カメレオンの目が見開かれた。怪人の鋭い舌が伸び、ワルドを襲う。 「なるほどカメレオンの名に恥じない能力だな。しかし!」 ワルドに油断は無かった。 『エア・ニードル』により青白く輝きを放つ杖が死神カメレオンの舌を受け流す。 そしてワルドはそのまま怪人の胸元に入り込み、深々と杖を突き刺した。 それで決着はついたかに見えた……が。 「き、貴様!?」 「エェーッエッエッ! 俺と一緒に死ねぇ!!」 閃光を発し、怪人とワルドを中心に小さな、しかし人間一人を殺すには十分な爆発が起こる。 ショッカー血の掟――敗者には死、あるのみ。 だが死を前にした怪人に、それでも敗北を選ぶことは許されなかった。 致命傷を負わされた状態から敵を倒す唯一の手段……死神カメレオンは自爆を選んだのだ。 「メイジ一人と相打ちか。改造人間の恥さらしめ」 崩れ落ちた虫の息のワルドを見つめながら、つまらなさそうに吐き捨てる死神博士。 まあいい。再生怪人などいくらでも用意できる。それにこの結果は悪くはない。 予期せぬ事態だったが、ルイズの目の前で希望の芽を摘んだのは効果的だっただろう。 これで観念してショッカーに服従を誓えば面倒な洗脳処置を行う必要も無くなる。 脳改造手術や大幅な肉体の機械化はメイジが呪文を唱える過程に弊害が発生しかねないために行うことは出来ない。 よって、コルベールのような心の隙間をついた洗脳か脳波コントロール処置を考えていたが、自発的にショッカーに下ればそれが一番なのだ。 と、死神博士はそこまで考えた時、先程からルイズが声を発していないことに気付いた。 ワルドが現れ、始末されるまでの間に救いを求めたり、悲鳴の一つもあげそうなものだというのに。 嫌な予感と共に慌てて振り返ると、手術台にいたはずのルイズの姿が忽然と消えていた。 「まさか!?」 「……かかったな。そうだ、俺はただの時間稼ぎだ」 地に伏したままのワルドはそれだけ言うと、煙のように消滅する。 「こ、これは風のユビキタス……!?」 「おのれぇ、スクウェアのメイジだったか! コルベール、奴を探せ!!」 「……どうやら、気付かれたようだな」 魔法学院から数リーグ離れた上空。 双月の輝く夜の中の闇を縫い、空を駆けるグリフォンの姿があった。 その背には先程、ショッカーのアジトから脱出したばかりのワルドとルイズ。 脱出の際に気を失ったルイズを胸に抱きながらワルドは思案する。 ショッカーはルイズの力の覚醒に始祖の秘宝と指輪が必要と言っていた。 秘宝と指輪、これはトリステイン王家が所有する始祖の祈祷書と水のルビーに違いない。 ショッカーが逃げたばかりのルイズの捕獲に乗り出すか、先に秘宝を奪いにかかるかは分からない。 だが、どちらにしてもこちらは連中に対抗する力を得るために祈祷書とルビーを手に入れる必要がある。 「ならば、行き先は決まっているか……」 ワルドは急ぎグリフォンをトリステイン王宮へと走らせた。 <次回予告> 我らがルイズ・ヴァリエールを狙うショッカーのハルケギニア支部が送り込んだ次なる使者は、ガンダールヴ。 ショッカーの盾と化した伝説がルイズを狙う。ワルドはルイズの、神の左手となれるのか? 次回「13人のガンダールヴ」にご期待下さい! <怪人紹介> 【死神カメレオン】 仮面ライダー第6~7話に登場した怪人。 日本に隠された「ナチスの秘宝」を奪うために東京や大阪で暗躍、仮面ライダーと争奪戦を繰り広げた。 周りの景色に同化して姿を隠す特殊能力を持ち、戦闘面では伸縮自在の舌を使った攻撃を得意とする。 ショッカー首領にカメレオン男と呼ばれていたことから死神カメレオンの名は異名と思われるが…? ちなみに劇場版で再生怪人として登場した際には死神博士への配慮からか「カメレオン」と名乗っていたりする。 前ページゼロの使い魔 対 ショッカー
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9037.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十三話「ミラーナイト参上!」 分身宇宙人ガッツ星人 極悪宇宙人テンペラー星人 暗殺宇宙人ナックル星人 登場 他世界宇宙、マルチバースというものをご存じだろうか。我々が暮らす星、地球が宇宙に存在するのは常識だが、 その宇宙も一つだけではない。宇宙に地球以外の星が数多にあるように、宇宙も無数に存在する。 この多数の宇宙を内包する超空間がマルチバースと呼ばれている。 本来なら滅多なことがない限り干渉し合うことのない別宇宙だが、ある時、未だ謎の多い怪獣墓場から 違う宇宙へと迷い込んだ存在が現れた。その存在――邪悪なM78星雲人、ベリアルは別宇宙、アナザースペースを たちまち蹂躙し、巨大帝国を築き上げて恐怖で支配した。ベリアルの力はアナザースペースに生きる者の力を 超越していたため、外来種が在来種を駆逐してしまうように、その侵略は歯止めが掛からなかったのだ。 アナザースペース最盛の惑星、エスメラルダを乗っ取り、皇帝を自称するようになったベリアルは、 自分が宇宙間を漂流する羽目になった最大の原因、故郷M78星雲に復讐をするため、エスメラルダに存在する 莫大なエネルギーを秘めたエメラル鉱石を悪用して宇宙の壁を越える侵略兵器を造り出し、元いた宇宙へと送った。 そしてその侵略兵器の襲来により、別宇宙での事態を察したM78星雲の光の国は、一人の若き勇敢な戦士を アナザースペースへ旅立たせた。これが、ウルトラマンゼロとアナザースペースに生きる者たちとの出逢いである。 ゼロは恐ろしいほどに力を強めてしまったベリアルとその軍団に何度も苦戦しながらも、 結果的にはその悪しき野望を粉砕した。しかしベリアル軍団が全滅した訳ではなく、 アナザースペースには悪の種が残っていた。そのためゼロはアナザースペースの平和を護るため、 故郷の宇宙のものとは違う新たな宇宙警備隊を結成した。 その新宇宙警備隊、ウルティメイトフォースゼロを構成する5人のメンバーの一人が、 元よりエスメラルダを守護していた巨人の戦士。鏡面世界に存在する鏡の星の二次元人と エスメラルダ人のハーフであり、たった今ゼロを救うためにアルビオンに降り立った鏡の騎士、 ミラーナイトである! 唐突にニューカッスル城前に出現してナックル星人、ガッツ星人、テンペラー星人の三大宇宙人を退けた ミラーナイトの姿に、ルイズたちも侵略者たちも釘づけになっていた。 「な、何だあの巨人は!? 怪人どもを攻撃したが……僕たちの味方なのか!?」 「ルイズが嵌めてる指輪から出てきたように見えたんだけど……それにしても、ほれぼれするほど美しい姿ね……」 ミラーナイトの素性を知る由もないギーシュが騒ぎ、キュルケはその麗しき容姿に見とれていた。 そんな中、宇宙人たちの会話の内容が聞こえていたルイズは、呆然としながらつぶやく。 「あれが、あの人が、ミラーナイト……ゼロの言ってた、仲間……!」 一方、ナックル星人たち宇宙人連合は、ミラーナイトの存在におののいていた。 『ミラーナイト……ウルティメイトフォースゼロだとぉ!?』 『何ということだ。ウルトラマンゼロにこんな仲間がいたとは……! しかも、このタイミングで現れるとは……!』 宇宙人連合がやってきたのは、ウルトラの星が存在するM78ワールド。彼らがアナザースペースの住人である ミラーナイトやウルティメイトフォースゼロのことを知らないのは、当然であった。 そして当のミラーナイトは、息も絶え絶えの状態で倒れ伏しているゼロに手を貸して、助け起こした。 『ミラーナイト……! 助かったぜ……!』 『随分探しましたよ。遅くなって申し訳ありません。今、エネルギーを分け与えます』 ミラーナイトが右手をゼロのカラータイマーにかざすと、手の平からエネルギーが放出され、 カラータイマーに吸い込まれた。そのお陰で今にも消えそうだったカラータイマーが青色に戻り、 ダメージはまだ残りながらもゼロに活力が戻った。 『いよっしゃぁッ! こうなったからには、さっきまでのようには行かないぜ、汚ねぇ侵略者ども!』 『もちろん、私もともに戦います。さあ、どこからでも掛かってくるといい、卑怯者たちめ!』 そうして、朝陽が完全に昇り切った時には、ゼロとミラーナイトの二大戦士が並び立って堂々と侵略者と対峙した。 ゼロに加勢したミラーナイトに敵愾心を向けたのは、テンペラー星人だ。 『フハハハ! 面白い! 元々死にかけの奴をいたぶるのは趣味ではないのだ! ウルトラマンゼロの仲間とやら、 このテンペラー星人が仕留めてくれるわぁッ!』 テンペラー星人が足音を踏み鳴らして突進してくると、ミラーナイトはゼロから離れて 一対一の勝負へ持ち込むことにした。 『奴はテンペラーに任せるとしよう。我々は予定通りウルトラマンゼロを討つ! エネルギーが回復したとはいえ、 さっきまで死にかけだったのだ。このまま押し切るぞ!』 『了解した! このガッツ星人の真の力を見せつけてくれよう!』 『へッ! 来やがれ!』 ナックル星人とガッツ星人は依然とゼロを狙う。ゼロは下唇をぬぐうと、二人の敵を同時に迎え撃つことになった。 ゼロとミラーナイトが宇宙人とぶつかり合う間に、キュルケが改めてルイズに『レビテーション』を掛けて引き寄せた。 「ほらルイズ、モタモタしてないで、下がるわよ。ここにいたんじゃ、流れ弾で吹っ飛ばされるわよ」 「で、でも、ゼロが戦ってるのに!」 自分の言うことに従おうとしないルイズに、キュルケは呆れたように息を吐いた。 「何言ってるのよ。あんたや私たちがあの戦いに割り込んで、何が出来るっていうの? 文字通り、 足手纏いになるのがオチだわ」 キュルケの言う通りだとルイズは分かったので、悔しく思いながらも、ぐっと言葉を呑み込んだ。 「ほら、分かったら避難するわよ。歩くくらいのことは、自分でしてよね」 「……」 ルイズは無言で、キュルケに従って後退する。彼女の様子が気に掛かったキュルケだが、 ボヤボヤしていたら本当に危険なので、さっさと退避していった。 (ゼロ……どうか、頑張って……) そしてルイズは、ゼロが無事に逆転勝利することを祈ることしか出来ずに、キュルケの後についていった。 『せいッ! はッ!』 ミラーナイトはテンペラー星人に肉薄し、その身体にチョップやキックを入れる。しかし、 対するテンペラー星人は丸でびくともしない。 『何だぁ!? それが攻撃のつもりか! 片腹痛いわぁッ!』 『ぐッ!?』 テンペラー星人がミラーナイトの顎を殴り飛ばす。弓なりに宙を舞うミラーナイトだが、 空中で身体を反らすと両手の甲よりミラーナイフを放つ。 『ふんッ! こんなもの効かぬわッ!』 だが連射した光刃も、テンペラー星人の肉体に軽々と受け止められる。 『シルバークロス!』 着地したミラーナイトはクロスした両腕を振るい、十字の巨大な光刃を発射した。彼の十八番である 強力な必殺技、シルバークロスだ。 『ぬるいわぁぁッ!』 だがこれも、テンペラー星人の肉体を突き破ることが出来ず、粉々に砕け散ってしまった。 『むッ……!』 『ぐはははははははは! 脆弱! これが貴様の全力か!? とんだ期待外れだなぁ!』 テンペラー星人の身体に傷も負わすことが出来ないミラーナイトを、テンペラー星人が見下して嘲笑する。 ミラーナイトは鏡に関わる、他の者には真似することの出来ないような特殊な能力を持っている。 しかしそのためか、本人の基礎的な攻撃力は優れているとは言えないのだ。その上テンペラー星人は 宇宙きっての武闘派種族。地球で最初に記録された個体は、スーパーパワーを誇るウルトラマンタロウの 必殺技が直撃しても何ともなかったほどの防御力を見せつけたのだ。 『わしに手傷を負わせられないのでは、貴様には到底勝ち目などないッ! とっとと引っ込んでもらおうかぁ!!』 『くッ!』 吠えたテンペラー星人が両手よりビームウィップを伸ばし、それの乱打を見舞ってくる。 ミラーナイトは鏡のバリアー、ディフェンスミラーでその攻撃を防ぐしかなかった。 また、ミラーナイトによってエネルギーが回復したウルトラマンゼロも、ガッツ星人とナックル星人に 二人掛かりで攻撃されてまた窮地に陥っていた。 『食らえッ!』 『ぐああッ! くッ!』 ガッツ星人のアイビームを食らって、苦しむゼロ。素早くゼロスラッガーを飛ばして反撃するが、 ガッツ星人は分身してかわした上に背後へ回り込む。 『くそ……! ちょこまか動き回る上に増えやがって……! どれが本物だ……?』 ゼロはガッツ星人の分身と高速移動を駆使した幻惑戦法に惑わされていた。そして逡巡していると、 ナックル星人が飛び掛かってくる。 『隙ありぃッ!』 『ぐお!?』 背後からヤクザキックを食らって倒れかける。すぐに後ろ蹴りを打つが、その時にはナックル星人は下がっており、 代わりに正面からガッツ星人の分身からの破壊光線が飛んでくる。 『ぐああああ!』 手が出せずに追い詰められるゼロを、ナックル星人とガッツ星人が嗤う。 『クハハハハハハ! 先ほどは焦らされたが、何のことはない。貴様の戦闘データは握っているのだ! エネルギーが回復した程度では、こちらの優位は崩れん!』 『貴様の父親、ウルトラセブンが結局は破れなかった、我がガッツ星人の分身戦法! これがある以上、 貴様に勝機など微塵もないのだぁ!』 両者とも既に勝った気になって豪語する。だが、それに対してゼロは、 『ふッ……!』 冷笑を見せた。 『ん!? 何がおかしい!?』 『こいつ、とうとうおかしくなったか!?』 想定外の反応に硬直したガッツ星人とナックル星人に、ゼロは下唇をぬぐいながら言ってのける。 『戦闘データを握った……何を勘違いしてやがる。俺がいつ全ての力をお前らに見せたと言ったんだ?』 『何!? まさか……!』 『俺の底は、ブラックホールよりも深いんだぜ! はぁぁぁッ!』 ゼロが掛け声を上げると、ウルティメイトブレスレットと全身が青く光り輝き、たちまち青い体色へと変身した! 『ルナミラクルゼロ!』 変身を完了したゼロが、自身のことをそう宣言した。 「あの姿は!」 離れた場所から戦いの行く末を見守っていたルイズは、ゼロの変身を目の当たりにして、 アルビオンに到着するまでの空路で目にしたストロングコロナゼロを思い出した。 しかし、今のゼロの姿はあの時のものとも違う。 「まだ能力を隠し持ってたのね……」 ゼロの変身に勝機を見出しながらも、ルイズは同時に、いくつも力を持っているゼロのことを激しく羨んだ。 (わたしには、見てるだけしか出来ないのに……) それでも戦いから目を離さずに、ゼロたちの命運を見届けることに決めた。 『食らえぇぇぇぇぇぇぇ!』 ミラーナイトとの戦いを続けているテンペラー星人は、最大の攻撃であるウルトラ兄弟必殺光線を発射した。 破壊光線にもなる強力な光線技だが、ミラーナイトは軽やかに跳躍し、テンペラー星人の頭上を跳び越えて 背後に回った。 『ちぃッ! すばしっこさだけは一人前だな!』 『はぁぁッ!』 テンペラー星人が毒づいて振り返ったのと同時に、ミラーナイトが十字型の鏡を大量に作り出し、 それでテンペラー星人の周囲を取り囲んだ。 『何ぃ!? 鏡だとぉ!?』 『シルバー……クロスッ!』 そしてミラーナイトは、開いている上部からシルバークロスを投げ込み、テンペラー星人にぶつけさせた。 『ぬぅんッ!? 馬鹿が! 効かないというのが分からんのか!』 その一撃はテンペラー星人の身体に弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいく。……と思いきや、 周りの鏡に反射されてテンペラー星人へと戻ってきた。 『何!?』 戻ってきたシルバークロスはまた弾かれるが、360度を覆っている鏡に反射されて、再びテンペラー星人へ戻ってくる。 それを何度も繰り返し、様々な方向からテンペラー星人に激突する。 『ふんッ! 下らん小細工をしおって!』 テンペラー星人は縦横無尽に飛び回るシルバークロスを捉えられないが、所詮ダメージは受けないと考えて、 身をかがめて受け続ける。ミラーナイトはその様子を上から覗き込んで、シルバークロスを目で追う。 『ククク……そろそろ反撃と行こうか……!』 しばらく受け続けた後に、シルバークロスの速度が弱まってきたと判断して背を伸ばすテンペラー星人。 そしてウルトラ兄弟必殺光線の発射準備に入ったその時、 『ぐはぁッ!?』 背後から飛んできたシルバークロスが、肩に突き刺さって前面へと貫通した。 『馬鹿な……何故ぇ……!?』 ミラーナイトの攻撃は自分には全く通用しなかったはず。それなのにどうして……。 その理由を薄れゆく意識の中で考えたテンペラー星人は、一つだけ可能性に行き着いた。 『まさか、同じ場所に……正確にぃ……!』 シルバークロスは縦横無尽に飛び回っていると見せかけて、その実テンペラー星人の肉体の一箇所にのみ 集中して当たり続けていたのだ。したたり続ける水滴がいつかは石に穴を開けるように、わずかな傷しか与えられない 小さな攻撃も連続すればどんな鎧も貫く。 これは、かつてミラーナイトの出身地である宇宙で戦った、テンペラー星人と同じように 鋼の強度の肉体であらゆる攻撃をはね返した強敵アイアロンを破ったのと同じ戦法である。 ミラーナイトは鏡の能力だけでなく、敵の虚を突いてそのまま打ち崩すトリッキーな戦い方と それをなし遂げる抜きん出た技巧と頭脳も持ち味としているのだ。 『脆弱なのはお前の方だ!』 ミラーナイトが言い渡すと、バッタリと倒れたテンペラー星人は跡形もなく爆散した。 ガッツ星人とナックル星人は、ハルケギニアでは今まで見せたことのなかった変身を遂に見せたゼロに、 驚愕を禁じえなかった。 『ル、ルナミラクルゼロだとぉ!?』 『おのれ……! まだ能力を秘めていたのか……!』 普段とは異なり、どこか冷静で神秘的な雰囲気を醸し出しつつたたずむゼロを前に動揺していた ガッツ星人だが、すぐに気を取り直す。 『ふんッ! こけおどしだ! たとえどんな姿になろうと、我が分身戦法は破れはしないわぁッ!』 自らに言い聞かせるように叫ぶと、ゼロを取り囲む全ての分身から光線を発射する。 しかしゼロは、ガッツ星人並みの滑るような高速移動を行い、光線を全て回避した。 『な、何だとぉ!?』 『速いッ! 速すぎる!』 ガッツ星人もナックル星人もゼロの動きを目で追うことが出来ず、先ほどまでとは真逆に翻弄される。 『……はッ!?』 ナックル星人が気づいた時には、自身のすぐ横にゼロがいて手の平を差し向けていた。 『レボリウムスマッシュ!』 『うがぁぁぁー!?』 手の平から発せられた衝撃波によって、ナックル星人が弧を描いて吹き飛ばされた。 『ナックル! おのれぇッ!』 ガッツ星人は更に分身を作り出し、ゼロに対抗しようとする。そうするとゼロは、ガッツ星人の動きを 集中して観察し、分身の一つに腕を向ける。 「セアッ!」 その腕からパルス状の光線が発射され、ガッツ星人に当たるとその身体を麻痺させる。 同時に分身が全て消え去った。 『がぁッ!? な、何だとぅ!?』 ガッツ星人は絶対の自信を持つ分身能力が破られたことに激しく狼狽する。しかし、分身が破られたのは 歴史上これが初めてではない。ウルトラマンメビウスもメビュームピンガーという光線技でガッツ星人の分身を攻略している。 今の攻撃はそれと同等の技なのだ。 そしてゼロはふた振りのゼロスラッガーを飛ばすと、それがゼロの前で円を描くように動きつつ六枚に増えた! 『ミラクルゼロスラッガー!』 増殖したゼロスラッガーは、身動きの取れないでいるガッツ星人を瞬く間に切り裂く! 『ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 ガッツ星人は断末魔を上げ、完全に爆死した。 『ガッツ!! ち、ちくしょうがぁ……!』 ガッツ星人が倒されたことでうろたえるナックル星人。ちょうどその時にテンペラー星人も倒され、 ミラーナイトがゼロの隣に着地する。 『なッ、くッ……! お、覚えてろッ! このままじゃすまさんぞぉ!』 最早勝ち目はなくなったことを悟ったナックル星人は、背を向けるとなりふり構わずに アルビオンの奥地へ向けて逃走していった。 『待て! ……ぐッ!』 追いかけようとしたゼロだが、一歩踏み出すとカラータイマーが再び鳴り出して倒れかける。 そのためミラーナイトが咄嗟に支えた。 『ゼロ、今の状態での深追いは危険です。悔しいですが、今回のところはあなたが助かっただけよしとしましょう。 今のあなたの命は、あなただけのものではないようですし』 『そうだな……その通りだ。すまねぇ』 ミラーナイトは、ゼロが才人と一体化していることを早くも見抜いていた。冷静さを取り戻したゼロは、 ミラーナイトの忠告に感謝する。 『私がいない間のことは、後ほど伺います。だから今は、あの可愛らしいお嬢さん方の下へと戻ってはどうでしょうか?』 『ああ、そうするぜ。……ありがとな、ミラーナイト』 『あなたのためでしたら、これくらい』 最後にそう言葉を交わした二人は、空に飛び上がってニューカッスルを後にした。 ゼロとミラーナイトが立ち去った後で、キュルケやギーシュがほっと息を吐いた。 「はぁ~……一時はもうダメかと思ったけど、ゼロが助かってほんと良かったわぁ。あの急に出てきた 緑色の巨人って、やっぱりゼロの仲間なのかしら?」 「そうに違いないだろうね。ただ、敵が一人だけ逃げていったのが気に掛かるが……」 「いいじゃない、あんな図体だけデカい臆病者のことなんか。寄ってたかってゼロをいたぶってたくせに、 一人になった途端にすごい勢いで逃げていったわよ」 キュルケがナックル星人の無様な姿を思い出して笑いつつ、ルイズとの三人で元いた礼拝堂の前まで戻っていく。 するとちょうどその時、才人がフラフラとおぼつかない足取りで姿を現した。 「! サイト!」 ルイズたちは慌てて駆け寄り、ギーシュが才人を支える。 「ダーリン! もう、どこ行ってたの! どこにも姿がなくて心配だったのよ!」 「君、ひどく衰弱してるじゃないか! もしやさっきのウチュウ人にやられたのかい!?」 「ま、まぁ、そんなとこかな……けど、ゼロに助けられたから、心配しなくても……」 「あぁもう、しゃべらなくていいよ。今は安静にしていたまえ」 途切れ途切れに語る才人をギーシュが制止した時、遠くから軍隊の鬨の声が聞こえてきた。 「! いけない、貴族派の兵隊だわ! 宇宙人がいなくなったから、改めてニューカッスルを攻めるつもりね! 早く脱出しないと!」 ルイズの台詞に、キュルケが聞き返す。 「何が何だかよく分からないんだけど……ワルド子爵はどこ行っちゃったの?」 「ワルドは……詳しいことは後で説明するわ。任務は一応達成したから、早く逃げましょう。 サイトも休ませないと」 「分かったわ。早く戻らないと、待たせてるタバサに悪いしね」 キュルケとギーシュ、才人がヴェルダンデの開けた穴に潜ろうとするが、ルイズだけは 彼らに少しの間待ってもらい、斃れたウェールズの下へ向かう。 この時には、ウェールズは完全に事切れていた。 「皇太子……お守り出来なくて、申し訳ございません」 ルイズはひと言謝り黙祷を捧げてから、せめてアンリエッタに形見を持っていこうと、 指に嵌まっている風のルビーを外して懐にしまった。 「ルイズ、早く!」 キュルケの急かす声で、ルイズは最後に一礼した後、キュルケたちに続いて礼拝堂から脱出した。 ヴェルダンデの掘った穴はアルビオン大陸の真下に通じており、ルイズたちは帰りを待っていた シルフィードに受け止めると、すぐに魔法学院に向けて羽ばたいた。 「サイト……」 ルイズはシルフィードの尻尾の付け根の辺りで、体力の限界が来て気を失った才人の頭を膝に乗せている。 他の三人は、シルフィードの背びれを背もたれにして前の方に腰掛けていた。 「娘っ子、妙に相棒に優しいじゃねえか。膝枕までしてよ」 「うるさいわね……わたしだって、労をねぎらうくらいのことはするわよ」 才人に代わってルイズが背負っているデルフリンガーがからかうと、ルイズは小さく言い返した。 普段なら少しからかわれただけで大袈裟なほどに反応するのだが、今は彼女の心の中に様々な思いが駆け巡っていて、 そんな気分にならなかった。 たった半日にも満たない時間の中で、たくさんのことがあった。まさかのワルドの裏切り。 かつて心から憧れた人の背信は、非常にショックだった。そして才人のお陰で一時は無事に 助けられたと思ったウェールズの死。アンリエッタに何と言えばいいのか……。極めつけは、 無敵の存在と信じていたウルトラマンゼロの窮地だ。あの時は、心が絶望で塗り尽くされかけた。 何よりルイズにとってショックだったのは、自分が何の力にもなれなかったことだった。 ゼロは結局、ミラーナイトという彼の仲間が救った。自分は、今回も見ていただけ。 才人も必死になってワルドと戦ったのに、自分は護られてばかりだ。 (サイト……) ルイズは膝の上の才人の顔を、その中のゼロを見つめる。その顔を見ていると、妙な胸の高鳴りを覚えるのだが、 今はそれ以上に無力感が湧き上がってくる。悔しい思いは「ゼロのルイズ」と呼ばれる度に味わってきたが、 今この瞬間に感じる辛さはそれとは比べものにならないほど大きかった。 (わたしに出来ることは、何一つないっていうの? 本当に『ゼロ』のルイズでしかないの? ……嫌。わたしにも何か出来ることが欲しい。……サイトとゼロのために……力が、欲しい……) ルイズは人生で一番、力の渇望を覚えていた。すると、彼女の指に嵌まる『水のルビー』が、 キラリと、ミラーナイトが出現した際の光とはまた違う輝き方をした。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔